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日本産カワニナ科貝類は1995年以降に、23年も新種記載はされていませんが、
先月に化石種(絶滅種†)が5種も記載され、このブログで触れないわけにはいきません。
論文のFig. 2.を見たときに、現生種とあまりに似ていて、あぁと思いました…。
これはS君の的確な指摘ですが「現生の変異幅を理解せずに記載した」感がします。
Fig. 2 1. Semisulcospira (Biwamelania) nakamurai に似ていませんか。

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Fig. 2, 3. S. (B.) pseudomultigranosa に似ていませんか。

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Fig. 4-9. S. (B.) spinulifera に似ていませんか。

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Fig. 10-13. S. (B.) kokubuensis に似ていませんか。

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Fig. 14-17. S. (B.) pusilla に似ていませんか。

胎殻形態がやや異なる種類もいますが、私はそもそも胎殻で同定できるとは思っていません。
ちなみに、ムカシイボカワニナはヤマトカワニナによく似ているなと思っています。

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2017年11月24日にokfish中村さんから大変に貴重な物を頂きました(感謝)。
左上がナカセコカワニナ(死殻)。右上がオガサワラカワニナ(死殻)、下が生体です。

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オガサワラカワニナは中村さんが繁殖させた個体だそうです。
小笠原諸島の固有種で、殻にしても、ましてや生体は、簡単に見る機会はありません。
ただ、私は日本産のカニモリガイ上科カワニナ科には強い興味があっても、
オニノツノガイ上科トウガタカワニナ科には、ほとんど興味がありません。
両者は上科で異なる似て非なるものですが、混同されていることが多いです。
例えばこちらのオガサワラカワニナ。カワニナ科にしています。属名も異なります。
更に写真はヌノメカワニナです。検索上位に来るので、誤情報が拡散しているかも。

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okfish中村さんは「日本産淡水貝類図鑑(1) 2003年」が出版された直後に、
宇治川の模式産地近くでナカセコカワニナを採集されて、それを現在(2017年)まで、
流れのあまり強くない水槽で、累代飼育されているそうです。そこの死殻です。
5世代は経過しているそうです。これはナカセコの特長をそのまま有しています。
奇しくも丁度1年前に「ナカセコとタテヒダ」という記事を書きました。
簡単に言うと、ナカセコとタテヒダは遺伝的に見たら同種という説があります。
ナカセコを流れの弱い水槽で累代飼育すれば、そのうちタテヒダ形態になるはずだと。

累代飼育は最低3世代以上が必要です。ざっくり胎児→稚貝→成貝→交接の4段階あります。
捕って来たばかりのナカセコ成貝雌には、宇治川で作られた胎児が入っている可能性が高く、
それが産み落とされても、その稚貝の形態は、宇治川の影響が色濃く出ます(2世代目)。
しかし、稚貝→成貝→交接は水槽内で行われます。その次の世代(3世代目)は、
4段階の全てが水槽内で行われ、宇治川の環境的な影響は無くなると言えます。

この個体は5世代は経過しているというお話でしたし、現在も生存している個体も、
同様な形態をしているそうですから、ナカセコは流れの弱い水槽で累代飼育しても、
タテヒダに近くなることはなく、ナカセコ形態を保つと言えると思います。
私が飼育していたシライシカワニナも、3世代目で大きく形態が変わることはなく、
むしろ形態的な多様性が減って均一化し、典型的なシライシ形態が増えました。
おそらく生態型や表現型可塑性よりも、別の何か(遺伝子?)の方が、
形態決定に対する影響力が強いようです。更にカワニナ類が難解になった気がしました。

これらは私が持っていても、あまり役に立たないため、okfish中村さんの了解を得て、
さわだ君へ送りました。研究の一助になれば幸いです。むしろ解決を遅らせるかも。

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先日、さわだ君が学園祭の展示で、来場者からタニシとカワニナの違いを聞かれ、
うまく答えられなかったそうです。ネット検索しても、タニシの方が丸っこくて、
カワニナの方が細長いなどの様な記述が多く、あまり明確な回答が見つかりませんでした。
本来はタニシ科とカワニナ科を、形態から分類した論文が存在するはずですが、
それを確認するまでもなく、両者には違いがあるため、出来るだけ簡単に記しました。

タニシとは一般にタニシ科の総称で、タニシという標準和名を持つ種類はいません。
日本にはヒメタニシ、マルタニシ、オオタニシ、ナガタニシの4種類がタニシと呼ばれています。
カワニナは一般にカワニナ科の総称ですが、カワニナという標準和名を持つ種類もいます。
ここでは総称として使います。日本には19種3型(21種類)がカワニナと呼ばれています。

まず、タニシとカワニナを識別する場合、必ず殻口(蓋のある方)を手前へ向けます。
そして赤線で囲った部分を確認し、横筋がない場合はタニシ、ある場合はカワニナです。
この横筋は貝殻が僅かに盛り上がり、殻底肋と呼ばれます。カワニナは2~12本ほどあります。
しかし、カワニナの中には、付着汚れや摩耗などで、希に消えかかっている個体もいますし、
タニシ(特にヒメタニシ)の中には、毛(殻皮毛)が生えて、殻底肋と間違えやすい個体もいます。
そうした紛らわしい個体は、下記の蓋を確認してみましょう。

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殻口をふさぐ蓋が、タニシはきっちり閉まり、カワニナはきっちり閉まりません。
そのため体(軟体部)が、タニシは見えず、カワニナは見えます。
特にカワニナの殻口上端と蓋は、合わずに隙間が出来きます。

横筋の有無、殻口と蓋の状態、この2つを知れば、これがどちらかわかるはずです。
問題は殻口を手前に向けていない場合です。これは急に高度な識別能力が要求されます。
些細な違いから識別は可能ですが、面倒がらずに殻口を手前にしてご確認ください。

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2年半前に中二病でも恋がしたい!とカワニナの関係については記しました。
放送が終わって、熱はだいぶ冷めましたが、京アニでまだ続いていることを最近知りました。
現在放送中の響け!ユーフォニアムという京アニの最新作で、舞台は京都府宇治市。
普通は宇治市と言えば宇治茶や平等院。私は宇治橋が模式産地のナカセコカワニナです。

ネットで検索すると、宇治橋付近の背景画が多く、OPの最後は名古屋市のセンチュリーホール。
何か興味がわいて、公式サイトのキャラクターのページを見ると、びっくりしました。

中世古香織(なかせこかおり)
中瀬古川蜷(なかせこかわにな)

しかも、ナカセコカワニナの特徴は、丸っこい感じなのですが、ショートヘアで似ている。
これはどう考えても、ナカセコカワニナからの献名だ。写真は宇治橋付近の立て看板ですが、
これを見てキャラクター名にしたのではないだろうか。真相は京アニのみが知るところですが…。

このアニメを見ていない私としては、正直どうでも良いのですが、ネットで検索しても、
中世古香織とナカセコカワニナについて、ピンと来ている人はいないようです。
そのためカワニナファンとしては、アニメファンの人にも、知ってもらう目的で記しました。
放送がまだ2回くらい残っているようなので、ちょっと見てみようかなと思いました。

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この記事から半月も過ぎましたが、それは超難解で困っていたからです(笑)。
以下に小難しいことを、なるべく簡単に書きますが、たぶん伝わらないと思います。
ブログなので出典は省略し、カワニナ図鑑で記す際は、ちゃんと載せようと思います。
一昨年にU先生から頂いた記載論文とご助言は、大変に参考になりました。感謝申し上げます。

日本産カワニナ亜属は定説だとカワニナチリメンカワニナクロダカワニナの3種がいます。
クロダカワニナは遺伝や形態から、ヤマトカワニナ亜属だと思われるため、ここでは省きます。
カワニナとチリメンカワニナは、ほぼ全国に分布し、その違いは貝殻に縦肋が有るか無いかです。
つるつるしていたらカワニナ、ひだひだがあればチリメナカワニナ。実際は例外だらけですが…。
そのひだひだがあるグループのチリメンカワニナは、1種ではなく3種だったという話です。
そこで問題になるのが、そのうちどれが1874年に命名された、チリメンカワニナなのかです。
更に他の2種は何なのかです。そのあたりを頭に入れて頂いて話を進めますね。

チリメンカワニナは遺伝と胎殻(母体内の子)形態からA型とB型が知られています。
●チリメンカワニナA型 胎殻は殻長1.6mm前後/縦肋は弱い/螺肋は2本で強い
●チリメンカワニナB型 胎殻は殻長2.0mm以上/縦肋は顕著/螺肋は1本で強い
この胎殻を使って、A型とB型のどちらが、チリメンカワニナかわかれば良いのですが、
チリメンカワニナの模式標本や模式図には、胎殻がないため、どちらかわかりません。
貝殻から遺伝子は調べられず、模式産地の横浜は、2種が生息するそうで、分布も使えません。
親形態の違いはわかっておらず、胎殻による同定は、成熟した雌しか同定が出来ません。

A型とB型の他にもう1種がいます。C型だったらまだ楽なのですが、そうは問屋が卸さない(泣)。
A型とB型は広域分布するようですが、もう1種は静岡県東部・長野県以東に分布するようです。
その中には、ひだひだがあるグループとして、チリメンカワニナにされちゃった種がいます。
それがキタノカワニナ(函館)、ハコネカワニナ(芦ノ湖)、ヒタチチリメンカワニナ(常陸)です。
これら3つはおそらく同種で、A型やB型ではない、C型とも言えるものです。
そのため日本産カワニナ亜属を、カワニナ、チリメンカワニナ、ヒタチチリメンカワニナ、
キタノカワニナ、クロダカワニナの5種とする分類も、一部ではまだ使われています。

ここで学名と命名年を見てみましょう。

●キタノカワニナ Semisulcospira (Semisulcospira) dolorosa (Gould, 1859)
●チリメンカワニナ S. (S.) reiniana (Brot, 1876)
●ハコネカワニナ S. (S.) trachea (Westerlund, 1883)
●ヒタチチリメンカワニナ S. (S.) hidachiensis (Pilsbry, 1902)

最も早く命名されたのは、1859年のキタノカワニナです。チリメンカワニナよりも早いのです。
これら4つをまとめて1種とする場合は、チリメンカワニナはシノニム(命名は先取優先)となり、
正しくはキタノカワニナです。しかし、定説ではチリメンカワニナとして扱われています。
これは間違いです。但し、キタノカワニナの分布域に、チリメンカワニナ?型は分布しています。

過去にキタノカワニナ、ハコネカワニナ、ヒタチチリメンカワニナのうち、
ハコネカワニナが最も命名が早いと教えてもらい、その模式産地である芦ノ湖で捕れば完璧だと、
思い込んでいましたが、実際はキタノカワニナでした。間違えて伝えた方々すみませんでした。
それでは函館で捕らねばと思うかもしれませんが、芦ノ湖と同種なので捕りに行きません(遠)。

関東のひだひだがあるグループを、ヒタチチリメンカワニナとすることもありますが、
ハコネカワニナの方が命名年が早いため、ヒタチチリメンカワニナはシノニムだと思います。
どう転んでもヒタチチリメンカワニナが、分類上で生き残る道は無いと思えるため、
キタノカワニナに改める方が無難だと思われます。ただ、北海道のキタノカワニナの中には、
ひだひだがない個体も、高い割合で含まれているようで、これが個体差によるものなのか、
カワニナと混生しているのか、ちょっと判然としません。同定にはひだひだが重要なのだから、
キタノカワニナとは違うんだと考えるのであれば、ハコネカワニナにしておくのが良いです。

まとめると、チリメンカワニナと呼ばれる種は、チリメンカワニナA型、チリメンカワニナB型、
キタノカワニナの3種です。A型とB型のどちらかが、真のチリメンカワニナで、どちらかが別種。
その上でA型とB型をまとめて、チリメンカワニナとすることは、問題ないと思われます。
チリメンカワニナA型とキタノカワニナは、胎殻形態も類似し、識別は困難に近いのが現状です。
キタノカワニナも含めて、チリメンカワニナとして良いかもしれないが、命名年に問題が残る。

チリメンカワニナはA型とB型という、確立したものがあるため、それに習って記すとすれば、
キタノカワニナは、チリメンカワニナ(キタノカワニナ型)が、一番無難なように思われます。
要はチリメンカワニナ(A型)、チリメンカワニナ(B型)、チリメンカワニナ(キタノカワニナ型)。
これら3種をまとめて記すのであれば、「チリメンカワニナ種群」が適当だろうと思います。

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写真は芦ノ湖の一地点で採集したチリメンカワニナ種群です。
成貝の殻形態は当てにならないですが、左16個体はチリメンカワニナA型かB型で、
右10個体はハコネカワニナことチリメンカワニナ(キタノカワニナ型)だと判断しました。

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左はチリメンカワニナA型かB型、右はチリメンカワニナ(キタノカワニナ型)の胎貝(胎殻)です。
左は胎殻が大きく、縦肋が顕著で、螺肋は1本で強いように見えるため、B型だと思います。
右は胎殻は普通で、縦肋が弱く、螺肋は2本で弱いように見えます。結節が強いです。

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問題はこの個体です。採集地ではカワニナとチリメンカワニナ種群の中間型に見えました。
ただ、芦ノ湖にカワニナは見られず、親貝に縦肋が弱くあり、胎殻はA型に近いようです。
ということは、芦ノ湖の一地点には、チリメンカワニナ(A型)、チリメンカワニナ(B型)、
チリメンカワニナ(キタノカワニナ型)のチリメンカワニナ種群が全て分布しているのかも。

2011年の採集で、芦ノ湖はハベカワニナ(琵琶湖淀川水系固有種)がたくさんいたことから、
ホタルの餌や何かに混じって、カワニナ属が色々と放流されている可能性も高いです。
チリメンカワニナ種群3種のうち、チリメンカワニナ(キタノカワニナ型)こと、
ハコネカワニナは1883年記載なので在来。A型とB型の両方かどちらかは移入の疑いも。

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チリメンカワニナ(キタノカワニナ型)と思われる個体を、茹でて醤油に付けて試食しました。
殻頂近くは青臭さがあって苦い。軟体部はまあまあ美味しい。他のカワニナ類と変わらない。
やっぱりカワニナ科は全て美味しくないです。だって未消化な苔も食べることになるからね。

この記事にある内容は、模式標本を確認していないなど、不備がたくさんあるので、
何とも言えない情報ですが、チリメンカワニナ種群が超難解なのは、伝わっていると良いな。
ちなみに、つるつるのカワニナも、遺伝的には2種いるので、もう頭が痛くなってきます(笑)。


追記 2023年4月21日
カワニナやL4との識別は非常に難しいですが、キタノカワニナとしておきます。