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先日にアザイカワニナが新種記載されたので、日本産カワニナ科(カワニナ属のみ)の、
献名について詳しく知りたくなって、少し調べましたので記事にしてみました。
現生種は有効名23種+未記載7種=30種で、そのうち献名は8種(敬称略)です。

●ナカセコカワニナ (中瀬古川蜷)
Semisulcospira (nakasekoae) nakasekoae Kuroda, 1929
Semisulcospira nakasekoae Kuroda, 1929 ※略記
原記載論文黒田徳米から中瀬古(種小名・和名)へ献名。
「宇治川(中瀨古, 黑田, 福岡)」とあるが由緒は不明。

●クロダカワニナ (黒田川蜷)
Semisulcospira (niponica) kurodai Kajiyama & Habe, 1961
Semisulcospira kurodai Kajiyama & Habe, 1961 ※略記
Semisulcospira kurodai K1-4 sensu Morita et al. (2023) ※種群
原記載論文梶山彦太郎波部忠重から黒田徳米(種小名・和名)へ献名。
「この研究について終始御激励と御助言を賜った黒田徳米先生に新種を献名して
感謝の意を表することが出来るのを,深く喜びとしている.」と明記。

●ハベカワニナ (波部川蜷)
Semisulcospira (niponica) habei Davis, 1969
Semisulcospira habei Davis, 1969 ※略記
原記載論文Davis, George Morganから波部忠重(種小名・和名)へ献名。
「A special note of gratitude is due Dr. Tadashige Habe」とあるが由緒は不明。

●モリカワニナ (森川蜷)
Semisulcospira (nakasekoae) morii Watanabe, 1984
Semisulcospira morii Watanabe, 1984 ※略記
原記載論文渡辺直から森主一(種小名・和名)へ献名。
「This species is named after Dr. Syuiti MORI, the President of Shiga
University, who made the pioneering ecological works on Semisulcospira,
and advised me to study this genus in Lake Biwa.」と明記。

●サザナミカワニナ (細波川蜷)
Semisulcospira (nakasekoae) davisi Sawada & Nakano, 2021
Semisulcospira davisi Sawada & Nakano, 2021 ※略記
原記載論文澤田直人中野隆文からDavis, George Morgan(種小名)へ献名。
「The specific name is dedicated to Dr. George M. Davis, who greatly
contributed to the systematics of Japanese Semisulcospira.」と明記。

●チクブカワニナ (竹生川蜷)
Semisulcospira (niponica) nakanoi Sawada in Sawada & Fuke, 2022 ["2023"]
Semisulcospira nakanoi Sawada, 2023 ※略記
原記載論文】澤田直人から中野隆文(種小名)へ献名。
「The specific name is dedicated to Dr Takafumi Nakano, who greatly
supported the first author’s study of Japanese Semisulcospira.」と明記。

●トキタマカワニナ (時偶川蜷)
Semisulcospira (niponica) watanabei Sawada in Sawada & Fuke, 2022 ["2023"]
Semisulcospira watanabei Sawada, 2023 ※略記
原記載論文】澤田直人から渡辺直(種小名)へ献名。
「The specific name is dedicated to Dr Naoshi Watanabe, who significantly
contributed to the systematics of Semisulcospira in Lake Biwa.」と明記。

●アザイカワニナ (浅井川蜷)
Semisulcospira (niponica) nishimurai Sawada in Sawada et al., 2024
Semisulcospira nishimurai Sawada, 2024 ※略記
原記載論文】澤田直人から西村俊明(種小名)へ献名。
「The specific name is dedicated to Toshiaki Nishimura, who first
discovered the new species through his exhaustive survey of the
distribution of Semisulcospira in Lake Biwa (Nishimura 2024).」と明記。
澤田直人から浅井氏(和名)へ献名。浅井氏は分布域と領地から浅井長政
「The new Japanese name refers to the Azai clan, a Japanese daimyo
(feudal lord) of the Sengoku period, whose largest territory roughly
corresponds to the distribution of the new species (Ota 2011).」と明記。

献名された種小名(学名)の語尾は、男性がiで女性がaeを示します。
種小名は1758年(266年間)から基本的に不変で世界共通の名前です。
23種の最古はカワニナのGould, 1859で、165年間も使われ続けています。

和名は日本語なためにルールがなく、改称を提唱されることもしばしばです。
今年もトゲナガタカサゴイシモチが、ヒメタカサゴイシモチに改称されました。
日本産カワニナ科で、和名が改称されたものはないですが、シノニムは多数あります。

中瀬古(中瀨古)氏は苗字だけで名前が不詳。どこかに書かれていないだろうか。
献名を拝受した中野氏と西村以外は鬼籍(Davis氏は2024年6月19日)に入られています。
中瀬古氏は不明だが渡辺氏と浅井氏は没後に献名。西村を除いて偉人揃いで恐縮です。

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コセイカワニナ改めアザイカワニナがようやく新種記載されました!!!
正直な感想は長いっ。未記載種と思ってから14年ですよ。でも本当にありがとうございます。
アザイカワニナ Semisulcospira (niponica) nishimurai Sawada in Sawada et al., 2024
新種記載論文 https://evolsyst.pensoft.net/article/124491/
プレスリリース https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2024-06-12

2010月08月28日にmaikyさんと私(西村)は、安曇川河口にカワニナ類目的で潜りました。
陸でmaikyさんと同定を試みると、カゴメカワニナぽいけど、何か違う感じの個体がいました。
次体層の縦肋数などの計数形質が当てはまらない。家へ帰ってS先生にメールで、
同定をお願いしました。それが画像(Outlook)です。下段中4つについて微妙と書いています。
今見返すと下段一番左も同種だと思います。他にも誤同定がありますね。

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2010月08月30日に胎殻を確認し、それをS先生へメールしました。それが画像(Outlook)です。
これはカゴメでもハベでもない。カゴメモドキやタカシマカワニナと書いています。
2010年09月1日に当ブログにて記事化。現在は一部を残して削除。
2010年09月18日に再びmaikyさんと同所へ潜り、S先生へ採集したカワニナ類を送りました。
2010年09月23日にS先生から「カゴメ系の新種でいいでしょうね」とお墨付きを頂きました。
2010年11月30日に「日本産カワニナ科図鑑」を開設しコセイカワニナを掲載。当ブログで記事化

未記載種だろうということはわかっても、自分で新種記載する能力がない私は、
誰か記載やってくれないかなぁと探すことに。S先生やTさんにお願いするもうまく行かず。
2014年に別のTさんがやってくれそうでしたが、2015年に予算申請が通らず立ち消え。
2016年7月24日にさわだ君と採集し、記載してくれるというので全面協力しました。
最速で2016年の冬には、記載の見込みもありましたが、そんなにうまく行くわけがありません。
詳細に書くと色々な方面への、不平不満になりそうなので、途中おもっきり割愛しますが、
2回のリジェクトの後に、3回目の2024年6月10日にようやく新種記載されました(歓喜)。

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コセイカワニナではなくアザイカワニナとしたのは私の提案です。
湖西地域以外からも同種と思われる個体が見つかり、地域名を付す必要が無くなったからです。
それではニシムラカワニナかというと、これも何だかしっくりこないところもあり、
さわだ君と考えていたのですが、滋賀県で有名な武将の浅井長政公を思い出しました。
小谷城跡へ下調べにも行きました。「これでアレは決定」と匂わせています。
和名はアザイカワニナに決定。プレスリリースには「浅井氏の最大勢力」とありますが、
それは長政公の時代です。学名と和名どちらも人名という、割と珍しい新種になりました。

この日を迎えるには、多くの方にお世話になりました。改めてありがとうございました。
新種記載にご尽力された、さわだ君を始めとする著者、そして協力・関係者の皆様。
この種小名は駄目だと言えば、献名はそこで潰えたので、度量の大きさが窺えます。
発見へ至るまでに、採集へ同行して下さったmaikyさん、精査して下さったS先生、
お二人の代わりとして、献名という名誉を頂いたこと、忘れないように受恩刻石します。
今は石よりもネットの方が、深く刻まれるので、受恩刻網ですかね。ここに残します。

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日本産カワニナ科図鑑は1月から更新を停めていますが、アザイが記載された後に、
変更する予定でした。ただ、タテヒダ近似種群(タテヒダ、オオウラ、ケショウ、シノビ、
サザナミの5種)の識別があまりにも難しく、というか出来る人なんていないと思うので、
それをどうエイヤー同定しようか、悩んでいるうちに、進まなくなっていました。
とりあえず変遷表だけ更新しました。 https://tansuigyo.net/a_biwae/00.html

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茨城県で採集したヒダカワニナ Semisulcospira sp. cf. forticosta です。
ここここここを参照。주름다슬기で画像検索すると似た殻形態のがヒットします。
今のところ茨城県からだけ報告のある、韓国からの外来生物だと思われます。

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胎殻です。日本産カワニナ属貝類でこんな緑色で極小なのはいません。
どうして侵入したのかわからないですが、これ以上は広がらないで欲しいです。

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兵庫県北部で採集したカワニナ属の一種(K2)です。
Morita et al. (2023)Semisulcospira kurodai K2 とされている種類だと思います。
クロダカワニナの隠蔽種です。捕った時の印象は、幼貝の暗色帯が目立つ、
成貝の縦肋が体層まである個体が多い。これはK1やK3の変異幅に内包されます。

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胎殻です。K1と比べると、やや大きくなるまで保育し、暗色帯が太く濃くてにじまず、
2帯ある個体も見られる。この特徴はK3とほぼ同様。K4の胎殻はどれとも異なる。

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先日の3箇所目です。少し洗って特徴が見やすくなりました。
この中にカワニナ種群が3個体います。わかるかなぁ。

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琵琶湖で採集したヤマトカワニナです。
過去に記事化していますが、チクブカワニナぽいので、改めて新記事にしました。
ヤマトの模式産地は「Hab. Lake Biwa, near Kiyoto.」とされています。
京都の近くの琵琶湖は大津市中心部あたりだろうと思います。この個体は浜大津産です。

2010年11月28日に撮影したものですが、この頃はまだ試行錯誤中でした。
黒背景か白背景か。これは白背景の方が良さそうだということがすぐに分かりました。
平な場所へカワニナ類の殻口を手前にして置くと、殻頂が奥へ倒れてしまい、
下からのあおり効果で、殻口が大きく、殻頂が小さく見えます。
そこでタオルの上へ置き、殻口(体層)を少し押し込み、殻頂をふんわり乗せることで、
正面から見た形態が正確にわかるよう、撮影ができるようになりました。

胎殻はカワニナ類を1分ほど茹でて、爪楊枝でサザエのように回しながら取り出します。
胎殻が見られたのならば、白色の小皿に軟体部を置いて、爪楊枝のこけし飾りの部分で、
かき出すようにします。そして親殻を左側へ置いて、撮影するようにしました。
文献で胎殻の写真はたいてい大きめの1個体だけです。この場合は執筆者の選択が生じます。
自説に都合が良い胎殻が選ばれ、例外的な胎殻は無かったことにされる疑いがあります。
私の撮影方法は全ての胎殻が確認でき、数や親殻と比較した大きさが一目瞭然です。
軟体部の栄養状態や寄生虫なども、ある程度はわかります。情報が格段に増えます。
ただ、軟体部が気持ち悪い、胎殻の写真が小さい、という問題点もあります。

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近江八幡市で見られるヤマトは、変な個体が多い印象があり、例を3つ出します。
胎殻はヤマト系。螺層角はハベよりも広いが、顆粒はほとんど痕跡程度。交雑かな。

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ヤマトの殻底肋は2~3本が最頻値だと思っていますが、この個体は4~5本あるような。
次体層は縦肋よりも螺肋が強く、顆粒の数も多めです。胎殻の暗色帯もやや細くて薄い。
同様な個体は複数が見られます。割と典型的なヤマトも同所的に見られます。

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螺塔は縦肋、次体層は顆粒、体層は螺肋という、全部の乗せの豪華な個体。
他にこれも近江八幡市産です。これらは奇形や変異幅の端なのかは気になるところです。

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