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前記事で触れた変異幅について、もう少し詳しく記します。
シライシカワニナの殻底肋は模式標本が4本、変異幅は3-4(3.6±0.3)本とされています。
しかし、沖の白石において、6本を複数確認し、7本はある個体も採集しています。
模式標本と比べて3本も多いため、これは別種でしょうか。未記載種でしょうか。
その他の特長は、同所的に見られた個体と似通っているため、同種と考えられます。
そうすると殻底肋の変異幅は3-4本ではなく、実際の変異幅は3-7本ということです。

変異幅を図にしました。数値に意味はありませんが、イメージが湧き難い場合は、
次体層の縦肋数と思って下さい。この場合に新種記載された際の変異幅は13-17本で、
実際の変異幅は8-22本ということです。この実際の変異幅を理解していない人は、
例えば10本が捕れたらどう思うでしょうか。A種とは別種と思うに違いありません。
それを新種記載してシノニムを作るわけです。先月に新種記載された5種は、
現生種の実際の変異幅に、収まるものがほとんどだと思っています。

新種を記載する際は往々にして、最大値や最小値を外れ値と見なすなどして、
最頻値だけで分類する場合もあります。例えばオオガタスジシマドジョウは、
胸鰭腹鰭間の筋節数が14本として、検索表には記されていますが、変異幅は13-14本です。
最頻値の14本だけで、13本は切り捨てられたのです。これがカワニナ属の分類でも、
行われたのであれば、13-17本から14-16本として、更にA種の変異幅が狭まることになります。
この場合は13本や17本でも、別種と見なされてしまう、恐れがあるのです。

先月に新種記載された5種は、現生種と同種で全てシノニムだとは言い切れません。
数値が同じでも別種が存在します。形態的に識別できないが(今は見つけられないだけかも)、
生殖隔離があって交雑しない、隠蔽種がいるためです。スナヤツメの北方種と南方種などです。
例えば先月に新種記載された Semisulcospira (Biwamelania) nakamurai が、
形態的にホソマキカワニナの実際の変異幅に収まると思ったとしても、
ホソマキカワニナと呼ばれるものには、複数種が存在している可能性もあり、
そのうち1つはホソマキカワニナで、もう1つはS. (B.) nakamuraiの疑いも捨てきれないのです。
この場合に化石は形態的にしか調べられないため、その検証が極めて難しくなります。
こうした混乱を防ぐためにも、現生種の実際の変異幅を理解していない場合に、
化石を模式標本とするカワニナ属の新種記載は、慎重にお願いしたいと思っています。

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さて、2018年4月22日はmaikyさんオイカワムツさんと論田川へ採集に行きました。

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イボカワニナだと思います。タテヒダカワニナぽいのもいますが…。
蓋がない個体も多かったです。蓋は分類形質として使えないということです。
これが化石になったら、何種類記載されるのだろうと、思ってしまいました。

コメント一覧

maiky - 2018/04/25 (水) 19:57 edit

久しぶりのカワニナ採取で楽しかったです。
疲れてる中、お願いして申し訳なかったです、
タケシマやシライシに見える個体もあり面白い場所でした。
ありがとうございました。
記載は増えるばかり、50種ぐらいになるのかな(笑

西村 メール - 2018/04/25 (水) 23:41 edit

maikyさん。コメントありがとうございます。
論田川は一箇所でシライシやタケシマが捕れる凄いところですね。
タテジワカワニナだけでも何タイプかあるので、本当に50種くらいになりそうですね。