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この記事から半月も過ぎましたが、それは超難解で困っていたからです(笑)。
以下に小難しいことを、なるべく簡単に書きますが、たぶん伝わらないと思います。
ブログなので出典は省略し、カワニナ図鑑で記す際は、ちゃんと載せようと思います。
一昨年にU先生から頂いた記載論文とご助言は、大変に参考になりました。感謝申し上げます。

日本産カワニナ亜属は定説だとカワニナチリメンカワニナクロダカワニナの3種がいます。
クロダカワニナは遺伝や形態から、ヤマトカワニナ亜属だと思われるため、ここでは省きます。
カワニナとチリメンカワニナは、ほぼ全国に分布し、その違いは貝殻に縦肋が有るか無いかです。
つるつるしていたらカワニナ、ひだひだがあればチリメナカワニナ。実際は例外だらけですが…。
そのひだひだがあるグループのチリメンカワニナは、1種ではなく3種だったという話です。
そこで問題になるのが、そのうちどれが1874年に命名された、チリメンカワニナなのかです。
更に他の2種は何なのかです。そのあたりを頭に入れて頂いて話を進めますね。

チリメンカワニナは遺伝と胎殻(母体内の子)形態からA型とB型が知られています。
●チリメンカワニナA型 胎殻は殻長1.6mm前後/縦肋は弱い/螺肋は2本で強い
●チリメンカワニナB型 胎殻は殻長2.0mm以上/縦肋は顕著/螺肋は1本で強い
この胎殻を使って、A型とB型のどちらが、チリメンカワニナかわかれば良いのですが、
チリメンカワニナの模式標本や模式図には、胎殻がないため、どちらかわかりません。
貝殻から遺伝子は調べられず、模式産地の横浜は、2種が生息するそうで、分布も使えません。
親形態の違いはわかっておらず、胎殻による同定は、成熟した雌しか同定が出来ません。

A型とB型の他にもう1種がいます。C型だったらまだ楽なのですが、そうは問屋が卸さない(泣)。
A型とB型は広域分布するようですが、もう1種は静岡県東部・長野県以東に分布するようです。
その中には、ひだひだがあるグループとして、チリメンカワニナにされちゃった種がいます。
それがキタノカワニナ(函館)、ハコネカワニナ(芦ノ湖)、ヒタチチリメンカワニナ(常陸)です。
これら3つはおそらく同種で、A型やB型ではない、C型とも言えるものです。
そのため日本産カワニナ亜属を、カワニナ、チリメンカワニナ、ヒタチチリメンカワニナ、
キタノカワニナ、クロダカワニナの5種とする分類も、一部ではまだ使われています。

ここで学名と命名年を見てみましょう。

●キタノカワニナ Semisulcospira (Semisulcospira) dolorosa (Gould, 1859)
●チリメンカワニナ S. (S.) reiniana (Brot, 1876)
●ハコネカワニナ S. (S.) trachea (Westerlund, 1883)
●ヒタチチリメンカワニナ S. (S.) hidachiensis (Pilsbry, 1902)

最も早く命名されたのは、1859年のキタノカワニナです。チリメンカワニナよりも早いのです。
これら4つをまとめて1種とする場合は、チリメンカワニナはシノニム(命名は先取優先)となり、
正しくはキタノカワニナです。しかし、定説ではチリメンカワニナとして扱われています。
これは間違いです。但し、キタノカワニナの分布域に、チリメンカワニナ?型は分布しています。

過去にキタノカワニナ、ハコネカワニナ、ヒタチチリメンカワニナのうち、
ハコネカワニナが最も命名が早いと教えてもらい、その模式産地である芦ノ湖で捕れば完璧だと、
思い込んでいましたが、実際はキタノカワニナでした。間違えて伝えた方々すみませんでした。
それでは函館で捕らねばと思うかもしれませんが、芦ノ湖と同種なので捕りに行きません(遠)。

関東のひだひだがあるグループを、ヒタチチリメンカワニナとすることもありますが、
ハコネカワニナの方が命名年が早いため、ヒタチチリメンカワニナはシノニムだと思います。
どう転んでもヒタチチリメンカワニナが、分類上で生き残る道は無いと思えるため、
キタノカワニナに改める方が無難だと思われます。ただ、北海道のキタノカワニナの中には、
ひだひだがない個体も、高い割合で含まれているようで、これが個体差によるものなのか、
カワニナと混生しているのか、ちょっと判然としません。同定にはひだひだが重要なのだから、
キタノカワニナとは違うんだと考えるのであれば、ハコネカワニナにしておくのが良いです。

まとめると、チリメンカワニナと呼ばれる種は、チリメンカワニナA型、チリメンカワニナB型、
キタノカワニナの3種です。A型とB型のどちらかが、真のチリメンカワニナで、どちらかが別種。
その上でA型とB型をまとめて、チリメンカワニナとすることは、問題ないと思われます。
チリメンカワニナA型とキタノカワニナは、胎殻形態も類似し、識別は困難に近いのが現状です。
キタノカワニナも含めて、チリメンカワニナとして良いかもしれないが、命名年に問題が残る。

チリメンカワニナはA型とB型という、確立したものがあるため、それに習って記すとすれば、
キタノカワニナは、チリメンカワニナ(キタノカワニナ型)が、一番無難なように思われます。
要はチリメンカワニナ(A型)、チリメンカワニナ(B型)、チリメンカワニナ(キタノカワニナ型)。
これら3種をまとめて記すのであれば、「チリメンカワニナ種群」が適当だろうと思います。

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写真は芦ノ湖の一地点で採集したチリメンカワニナ種群です。
成貝の殻形態は当てにならないですが、左16個体はチリメンカワニナA型かB型で、
右10個体はハコネカワニナことチリメンカワニナ(キタノカワニナ型)だと判断しました。

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左はチリメンカワニナA型かB型、右はチリメンカワニナ(キタノカワニナ型)の胎貝(胎殻)です。
左は胎殻が大きく、縦肋が顕著で、螺肋は1本で強いように見えるため、B型だと思います。
右は胎殻は普通で、縦肋が弱く、螺肋は2本で弱いように見えます。結節が強いです。

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問題はこの個体です。採集地ではカワニナとチリメンカワニナ種群の中間型に見えました。
ただ、芦ノ湖にカワニナは見られず、親貝に縦肋が弱くあり、胎殻はA型に近いようです。
ということは、芦ノ湖の一地点には、チリメンカワニナ(A型)、チリメンカワニナ(B型)、
チリメンカワニナ(キタノカワニナ型)のチリメンカワニナ種群が全て分布しているのかも。

2011年の採集で、芦ノ湖はハベカワニナ(琵琶湖淀川水系固有種)がたくさんいたことから、
ホタルの餌や何かに混じって、カワニナ属が色々と放流されている可能性も高いです。
チリメンカワニナ種群3種のうち、チリメンカワニナ(キタノカワニナ型)こと、
ハコネカワニナは1883年記載なので在来。A型とB型の両方かどちらかは移入の疑いも。

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チリメンカワニナ(キタノカワニナ型)と思われる個体を、茹でて醤油に付けて試食しました。
殻頂近くは青臭さがあって苦い。軟体部はまあまあ美味しい。他のカワニナ類と変わらない。
やっぱりカワニナ科は全て美味しくないです。だって未消化な苔も食べることになるからね。

この記事にある内容は、模式標本を確認していないなど、不備がたくさんあるので、
何とも言えない情報ですが、チリメンカワニナ種群が超難解なのは、伝わっていると良いな。
ちなみに、つるつるのカワニナも、遺伝的には2種いるので、もう頭が痛くなってきます(笑)。

コメント一覧

トリ - 2014/12/03 (水) 07:40 edit

相変わらずカワニナの分類は難しいですね(汗)

さて、謎の個体ですが、気になる点がいくつかあります。
一つ目は中間型の個体であれば交雑個体でもいいのではないかなと思います。
複数種が棲んでいる環境ですと数%ぐらい交雑がいることがあるので・・・。

あとは成貝の殻底螺肋の少なさと胎貝の色ですね。
チリメンやカワニナですと胎貝の色は茶色なので、黄色のが混ざってるのが気になりました。
ただ、大型の胎貝が茶色なのでどうなのだろうというのも…。
特徴的にはヤマトカワニナ亜属っぽいなとも思います。

西村 メール - 2014/12/04 (木) 00:59 edit

トリさん。コメントありがとうございます。

>一つ目は中間型の個体であれば交雑個体でもいいのではないかなと思います。
>複数種が棲んでいる環境ですと数%ぐらい交雑がいることがあるので・・・。

「三重県伊賀地方でみられるカワニナとチリメンカワニナの酵素多型と雑種型個体」
を参考にすると、混生しないと相手がいないため、中間型は出難いと思いますが、
芦ノ湖は西岸を除いて、ある程度の場所は見ました。そこにカワニナはいませんでした。
仮に雑種集団であれば、もっと多く中間型が見つかりそうですが、3地点で1個体でした。
そのためこのA型ぽい個体は、少数しか定着していない、放流起源ではないかと疑っています。

>あとは成貝の殻底螺肋の少なさと胎貝の色ですね。

http://www.tansuigyo.net/a_biwae/c/02-546-20141115.jpg
殻底螺肋は殻口を手前に向けた場合、ほぼ無いに等しいように見えますが、
その裏側には弱くあるのが認められました。おそらく弱いだけで7~8本はあると思います。
胎貝の色はクロダを除いて、あまり関心を持ったことがないため、何ともわかりません。

似たような個体は、琵琶湖北湖北岸で何度か採集していまして、カワニナか?あっチリメンか?
何だこれという感じで、例えば↓のような個体です。たぶん同種だと思います。
http://www.tansuigyo.net/a_biwae/c/02-55-20101205.jpg
カワニナ類はご存知の通り、こんなのばっかりなので、いつもの変なのでたなという感じです。

サレンダー - 2014/12/04 (木) 20:23 edit

こんばんは。

結局ハコネヒタチともキタノカワニナと考えるべきなんですね。

ヒタチチリメンカワニナという和名が消えるのにもちょっと寂しさがありますね。

西村 メール - 2014/12/04 (木) 21:39 edit

サレンダーさん。コメントありがとうございます。
学名は先取優先ですが、和名に明確なルールはないので、今後どうなかるかわかりませんね。
芦ノ湖でハコネが捕れなかったら、サレンダーさんに連絡して、埼玉へ行く気でいました(笑)。

サレンダー メール - 2014/12/05 (金) 21:46 edit

こんばんは。

芦ノ湖からだと埼玉まで3時間はかかるような気がします。魚類学会のシンポはもともと行こうとは思ってたのですが、会員限定だと見たような気がしたので行きませんでした。

前におこぼれ掲示板に貼った埼玉東部のヒタチチリメンカワニナは放流起源の可能性あるんですよね。ホタルが一回滅んで再度復活してますし、昔はカワニナ見かけなかった記憶があるので、ただ利根川直結の水路なので在来の可能性もありますのでなんとも言えないです。

西村 メール - 2014/12/07 (日) 01:29 edit

サレンダーさん。埼玉を含めた関東は、芦ノ湖とは別の日に行こうと思っていました。
年会とシンポの両方とも会員限定ではなかったような。カワニナ類はホタルの餌用の放流が多いので、
もう滅茶苦茶になっていると思います。ただ、それが在来か非在来かの特定は難しい感じです。