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これの続きです。凄く頭痛くなります(笑)。
以前の考察とは異なる見解も書きました。でも要は何に従うかだけなため、
前の考察が全くの間違いで、この考察2が正しいというわけではありません。

研究者が並々ならぬ努力と知恵を絞って、ヌマエビ属に取り組まれているのが、
よくわかりました。主要な↓3つの論文は、私には特に重要で凄いと思いました。
「IKEDA et all. (1996) Tohoku Journal of Agricultural Research 47:37-45.」
「池田実 (1999) 遺伝学的にみたヌマエビの「種」. 海洋と生物. 123:(21)4. 299-307.」
「林健一 (2007) 日本産エビ類の分類と生態 II. コエビ下目(1) 生物研究社.」

林(2007)はuさんに探してもらいましたが見つからず、pさんに拝読させて頂きました。
お二方にお礼を申し上げます。3つの論文を基に更なる考察と、検索表も作りました。
ヌマエビ種群の意味は、ヌマエビ北部-中部グループ9型と、ヌマエビ南部グループの、
10種類からなる、ヌマエビ Paratya compressa species complex を示しています。

Wikipediaヌマエビ(分類の混乱)によると、『池田実らの研究(1999)によって、
ヌマエビ大卵型とヌカエビは同一種「ヌカエビ P. improvisa」にまとめられ、
ヌマエビ小卵型が「ヌマエビ P. compressa」として扱われることになった』とあります。
この文章や他の記述は、林(2007)からの引用や参考が多いと思います。
「池田実らの研究(1999)」に参考文献が記されていないのも、孫引きだと思います。

林(2007)を読むと、池田(1999)が如何にも、混乱していたヌマエビ種群を、
ヌマエビ P. compressa とヌカエビ P. improvisa に整理したように書いてあります。
しかし、池田(1999)は「分類学的に1種とされてきたヌマエビは,遺伝学的には異なる
二つの種の複合であること,頭胸甲上の棘の有無のような分類学的に重要視されている
形質で分けられている形態上のまとまりが,これらの二つの種とは必ずしも一致していない
ことが明らかにされた」とあるだけで、ヌマエビとヌカエビという種類の関係については、
言及していません。むしろ、遺伝と形態が一致しないので、分類できないとも取れます。

林(2007)はヌマエビの模式標本の産地は不明で、模式標本の写真から小卵と見做し、
ヌマエビとしていますが、日本産かすら分からず、模式標本を精査する必要があるのと、
ヌカエビの模式産地は榛名湖としているだけで、両模式標本の比較が記されていません。
分類上の不確定な問題を残しながら、ヌマエビ種群を2種に分けているとも言えます。

林(2007)以後の2009年に、池田氏は↓のような講演要旨を掲載しています。
両側回遊型ヌマエビにおける日本列島集団と琉球列島集団間の遺伝的分化
まずタイトルを「両側回遊型ヌマエビ」としています。両側回遊型ではないヌマエビが
いることを連想させます。更に「ヌマエビ Paratya compressa の南部グループは」とあり、
ヌマエビ Paratya compressa には南部グループ以外もあることを暗に示しています。
これは陸封性のヌマエビ北部-中部グループの存在を示していると私は思いました。

この書き方からだと、旧来の分類でヌマエビとヌカエビは、同種で亜種関係にあるため、
ヌマエビ P. compressa と書けば、これにはヌカエビ P. c. improvisa が含まれます。
林(2007)以後も池田氏は、ヌマエビ P. compressa とヌカエビ P. improvisa とせず、
ヌマエビ P. c. compressa とヌマエビ P. c. improvisa ともせず、
池田(1999)のヌマエビ P. compressa を使用し、未だ分類が未確定で混沌としていると、
読み取ることが出来ると思います。それなのに林(2007)は池田(1999)を主な基として、
ヌマエビ種群を2種にしているため、林(2007)には取り違えがあると考えられます。

ようするに、ヌマエビ種群は、まだ整理されておらず、カオスが続いているのです。
結果として、今なお生き続ける旧来の1種2亜種に従ったり、林(2007)の2種に従ったり、
遺伝的なグループ分けに従ったり、未整理としたり、これらを色々混合したり、
もうごちゃごちゃですが、どれも的に矢は刺さっていると思います。
的の中心に一番近いのは、未整理だと思います。整理完了までは大変そうです。

それはヌマエビ北部-中部グループ9型は、1つの種ではなく、隠蔽種群の可能性もあり、
ヌマエビ南部グループをヌマエビ P. compressa とし、ヌマエビ北部-中部グループ9型を、
ヌカエビ P. improvisa とする2種では済まない恐れもあり、完全な整理を目指すと、
未記載種・亜種の可能性も、一緒に検討する必要があります。例えば琵琶湖型は中卵で、
差異が明確なため、新種(亜種)記載も可能かもしれませんし、遺伝的に大きく離れた、
北部グループと中部グループも、後に形態形質の差異が、見つかるかもしれません。

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実用的・暫定的・便宜上という感じで言えば、卵サイズは遺伝的にも符合します。
ヌカエビ P. c. improvisa の模式産地である群馬県の榛名湖は、
ヌマエビ北部-中部グループ関東型で、卵サイズは大卵に当たります。
榛名湖へヌマエビ南部グループ(小卵)の進入は、普通に考えると無いため、
関東型の上位階層であるヌマエビ北部-中部グループを、ヌカエビ P. compressa とし、
ヌマエビ南部グループをヌマエビ P. compressa とすることは、細かいことに目を瞑ったら、
まあ問題は少ないのではないかと思われます。それを踏まえて検索表は作りました。
ただし、実用的・暫定的・便宜上で無い場合は、ヌマエビ北部-中部グループ9型と、
ヌマエビ南部グループという池田(1999)の見解に私は従います。

それでは実際に当てはめて見ましょう。写真左は和歌山県産です。
第1歩脚の腕節が、写真からは難しい。更に窪むかどうかは顕微鏡の世界か。
小笠原産じゃないから、もう次へ進みます。この時点でオガサワラヌマエビではない。
ということは言い切れなくなります。卵サイズは抱卵していないから次へ。
頭胸甲上棘数は、運悪く手前の水滴で、数えられないが、1本以上はある。
それでは同定できないので、ここで終了です。分類上は未同定ということです。

写真右は琵琶湖産です。これも第1歩脚の腕節が、写真からは難しく、抱卵していない。
頭胸甲上棘数は、たぶん2本ではないだろうか。これも正確ではないため、
標本化して顕微鏡で要確認しないと。仮に2本として、額角上縁棘数は全部確認できず。
10本以上はありそうだけど、28本はないだろうから、分類上は未同定で終了です。
分類上に重要な形態形質から同定を試みると、2産地とも未同定となりました。

未同定は嫌だ。という場合に、分布同定という、反則技があります。
和歌山県にはヌマエビしか分布しないため、沿岸河川で捕ったしヌマエビで良いだろう。
琵琶湖にはヌカエビしか分布しない。天ヶ瀬ダムが出来る前の1964年以前であれば、
ヌマエビが分布する可能性もあるが、この個体は2011年に採集したので、
47年も生き続ける個体はいないと仮定すれば、ヌカエビで良いかなとなります。
しかし、分布同定は形態比較をしないため、移入の同属他種の存在を無視しています。
外来エビは生息しない勝手な前提のため、反則技では同定という勝利は挙げられません。
それでも分類屋さん以外が、これはヌマエビだヌカエビだ。とするのは問題ないでしょう。
これはノンガターレーンでボウリングするようなものです。どれかピンには当たります。

ネット検索すると、ヌカエビ P. compressa とヌカエビ P. improvisa は、
「模様を見れば見分けは簡単」と、豪語されているページを見つけました。
これはヌマエビやヌカエビと、決め付けた個体を集めて、模様の比較を行っているため、
分類的や遺伝的な裏付けが全くないのです。分類的には第1歩脚の腕節から確認し、
確実に同定できた種だけを選び、その上で模様の比較をする必要があるのです。

理想を言えば、ヌマエビ北部-中部グループ9型とヌマエビ南部グループの10種類から、
まとまった数(仮に30個体)をサンプリングし、全てごちゃ混ぜにし(300個体)、
模様だけで2種に分けます。それを分類的や遺伝的に調べて、全て正解であるならば、
模様という形質は、決定的な特徴として使える、裏付けが取れたと言えると思います。

裏付けがない場合は「模様を見れば見分けは簡単」や「模様から典型的なヌカエビ」は、
根拠に欠けるため、言い過ぎでしょう。私はこちらのツイートと同じ考え方です。
日淡とカワニナ科は、それなりに知識を得たつもりですが、ここを見れば同定できる、
確実にこの種類だと思っても、慎重に記事1記事2のように答えることが多いです。
これは何々という種類です。と答えるときは、その個体を確り見て同定したときで、
他は何々だと思います。がほとんどです。過去にここでも少し書いています。

ヌマエビ属は無知なため、中途半端な知識もなく、気軽にテキトーなことを書きました。
おそらく本当に深く知ると、この記事が恥ずかしくなって、消したくなると思います…。

コメント一覧

タロベエ - 2013/02/01 (金) 14:18 edit

こんにちは。
難し過ぎて、頭痛で頭が痛いです。

かっちゃん URL - 2013/02/03 (日) 12:49 edit

こんにちは。

難解ですね、とてもついていけません。
ときに、今度はエビにはまるんですか?

西村 メール - 2013/02/03 (日) 13:09 edit

コメントありがとうございます。

タロベエさん。超難解なことを簡単に書くことは無理でした。書いた私も頭痛に…。
簡単に言えば、簡単ではないことは、簡単には言えない。という感じです。
1つ1つに補足説明を付けると、軽く5倍の文章は書かないといけない気がするので、
もう着いて来れる方だけでいいやと。独りよがりな記事を書いてしまいました。
結果として、頭脳労働時間対記事価値は、圧倒的に前者だったようで、あぁぁぁ。

かっちゃんさん。エビは過去も今も興味が薄いです。カワニナとは違いますよ(笑)。
ただ、ちょっとムカッとくることがありまして、そのエネルギーを記事に使いました。
それが収まらない場合は、考察3を書くかも。それでもダメなら、サイト立ち上げ?
今サーバー変更中で、約34000ファイルをupするまで計算上は、7時間は掛かりそうです。
7時間もパソコンの近くから、あまり離れられないので、作れるかも…。

サレンダー メール - 2013/02/03 (日) 21:12 edit

こんばんは。

ヌマエビに両側回遊型が居る事を始めて知りました。純淡水水槽で簡単に植えますし。
私の飼育してる埼玉のヌマエビはいわゆるヌカエビとされているグループだと思うのですが、今年夏福島と宮城でヌマエビ類を採集しましたが、(こういうところが私のダメなとこなんですがめんどくさいから撮影してません)外部形態の差をあまり感じなかったような気もします。ただどこがと言われると困るのですが多少の差はあるんです。

ちょっと疑問が湧いてきたのですが、ミナミヌマエビと呼ばれてるものもこの南部グループに含まれてるのでしょうか?

西村 メール - 2013/02/04 (月) 00:23 edit

サレンダーさん。コメントありがとうございます。
遺伝的には埼玉はヌマエビ北部-中部グループ関東型で、
福島と宮城はヌマエビ北部-中部グループ東北太平洋型のようです。
ヌマエビ南部グループがいる可能性も否定できませんが…。

いわゆるヌマエビやヌカエビなどのヌマエビ種群はヌマエビ属ですが、
ミナミヌマエビはカワリヌマエビ属です。属から言って違うものです。

早川 - 2013/02/12 (火) 16:48 edit

こんにちは。かなり出遅れましたが、僕にもさっぱり・・・ちんぷんかんぷんです汗。

やはり西村さんの人柄というのか、深いところまで突き詰めていくその姿勢が、僕はいつも尊敬の眼差しで見ていますよ。本当に素晴らしいです。そして、ホントすごいです!!

西村 メール - 2013/02/12 (火) 22:54 edit

早川さん。コメントありがとうございます。
簡易図を作るべきでした。色々と覚えておくことが多すぎて、余裕がなかったです…。
褒めないで下さい(笑)。ケチつけられると伸びるタイプです(爆)。

メンパパ メール - 2013/08/28 (水) 22:37 edit

初めてコメントさせて頂きます
滋賀県琵琶湖環境科学研究センターさんのHpの中、琵琶湖生物多様性画像データベースを見ていたときに、ヌマエビを見つけその学名が「Paratya compressa compressa」となっていたのに驚いて。
琵琶湖に両側回遊性のヌマエビが居るの!?
おまけに、2010年のレッドデータブックに載ったと書いてあった事に非常に驚きました。
自分の中では、琵琶湖には両側回遊性の蝦はいないと思っていました
載るのだったら 淡水で繁殖する「Paratya compressa improvisa」のヌマエビ北部-中部種の間違いでしょ
天瀬ダムルートでは×疎水経由? もし疎水ルートで上ったとしてもそのヌマエビが琵琶湖全域まで広がって生息していることに違和感を感じ
自分の中で納得できなくて色々調べていてこのブログの記事に辿り着きました。

読ませて頂いて、論文に対する解釈というか、注釈的な解説を入れてくださっていたので
なぜヌマエビ「Paratya compressa compressa」と表記しているのか理解出来ました。
論文等を読む場合、分類学あるある的な知識も考慮しないで
書いてある事をそのまま全部鵜呑みに自分の中で整理つけちゃうと今回のように
「何でやねん!おかしいだろ!」というどうしようもない壁にぶちあたってしまい
解決できずに悶々とする日々をすごす事になりますからね
本当にこの記事にめぐり合えてなかったら本当にかなりの期間悩んでいたと思います。

色々調べていて、ネット上で個人で色々書いておられる方のHPも沢山読みました。
でも読んでも何か私の疑問の壁を越えられるような答えはそこに無く
今を思えば、私と同レベルの論文を鵜呑みにした理解度で「これはこうだ!」と論じておられていたのかな?と思えています

本当に一般ピープルが「なるほど!」といえるような
私達に向けたこういうわかりやっすい解説的なものって少ないです。
教えていただきありがとうございました。

でも、このままこの両側回遊性のヌマエビとして現在扱われている学名の方でレッドデータブックでこの種を扱うというのに違和感を感じ、陸封のParatya compressa improvisaをレッドデータブックに掲載する方がスマートであるという自分の中の考えは変わっておりません。

長文失礼しました。

西村 メール - 2013/08/29 (木) 20:21 edit

メンパパさん。コメントありがとうございます。
貴ブログも拝読しました。琵琶湖の個体群は当然の疑問点になると思います。

滋賀県RDB(2010年版)のヌマエビ Paratya compressa compressa 解説文に、「額棘は細長く、上縁に14~34歯の細かい歯が、甲殻上から角の先端までほぼ等間隔で連続する点で、亜種ヌカエビ(P. compressa improvisa)と区別できる。」と記されています。これは滋賀県RDB(2010年版)として、ヌマエビとヌカエビの定義付けをしています。これは旧来の頭胸甲上(甲殻上)に歯は、有るヌマエビ、無いヌカエビという分け方です。

写真(http://www.tansuigyo.net/m/diary.cgi?mode=image&upfile=793-2.jpg)の右側は琵琶湖産ですが、頭胸甲上に歯が有るためヌマエビです。分類は形態によって、種・亜種が記載されているため、遺伝や陸封などの生活史によって、種・亜種を同定することは出来ません。

この頭胸甲上に歯の有無を利用することは、ヌマエビ北部-中部グループ琵琶湖型だけではなく、ヌマエビ南部グループまでも含むことになります。両者に形態的差異が中卵対小卵以外に認められないことから、雄の同定は不可能であり、それはヌマエビ南部グループの存在を否定することも、また不可能になります。更に天ヶ瀬ダムが出来る以前は、ヌマエビ南部グループが遡上していても不思議ではなく、琵琶湖にモクズガニの生息が確認されているようですから、疎水や地下水などによって、未だに移動が可能かもしれません。

これらから滋賀県RDB(2010年版)の整理もありかなと思わせます。何に従っても100点は無いため、ヌマエビ種群 Paratya compressa species complex が無難なのかもしれません。ただ、種群とかグループとか、カタカナ以外の変なのが付くのが、好まれない傾向があるため、ヌマエビって表記されちゃうのでしょうね。

メンパパ メール - 2013/08/29 (木) 22:16 edit

西村様 ご丁寧な返答ありがとうございました。
またまた色々勉強になりました。
『分類は形態によって、種・亜種が記載されているため、遺伝や陸封などの生活史によって、種・亜種を同定することは出来ません』
この同定基準に対する基本知識が私には欠落していました。
勝手に色々読み漁っての知識なので基礎が無い、でも今回この基本を教えていただきました。
ありがたや~ありがたや~
その後の解説文章も非常にわかりやすく?部分を解説してくださりありがとうございました。

追記、私のブログにコメントまで頂きありがとうございました
ご指定頂きました「群」の表記の件修正いたしました。
これからも自由に意味不明な記事アップし続けると思いますがよろしくお願いします。
でもどうして私のブログ知っておられるのか不思議です ???

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