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昨日にカワニナ図鑑へ載せた生息環境模式図です。補足で少しここに書きます。
底質は様々な細分化された分類はありますが、あえて一般的なイメージにしました。
岩は両手で持ち上げられない、石は持ち上げられる、礫は片手で持ち上げられる。
岩の上に泥や砂は乗っているだろうし、あまり意味のないことなのでざっくりです。
水深8.5mまでなのは、私がまともに潜れないので、確認できなかったからです。

カワニナ、キタノカワニナ、カワニナ種群L4、クロダカワニナ、タジマカワニナ、
サキガケカワニナ、ユメカワニナ、小河川を想定して、どこでもいるとまとめました。
ヒダカワニナ種群も同じようなものだと思うけど、移入場所はこうだったという感じです。

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ヤマトカワニナ、トキタマカワニナ、クロカワニナ、イボカワニナ、オオウラカワニナは、
だいたい同じ場所にいますが、マイクロハピタットというか、細かい好みは違います。
ケショウカワニナは傾向がよくわからないです。アザイカワニナ、サザナミカワニナ、
カゴメカワニナはざっくり深場の泥。ただ、サザナミカワニナは浅場にいる地域もあります。
アンガンカワニナは磯沖暗岩だけにいる。その周辺にいないのが不思議。

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タテヒダカワニナは岩石湖岸で石礫に多い地域もあるのですが、
ホロタイプ(旧ホソマキカワニナ)の模式産地は浜なので、その場所を想定しました。
タテジワカワニナは冬場に砂に潜るので、石礫などよりも砂底が必要なのかもしれません。

こうした砂底環境を砂浜湖岸として分類する文献もありますが、
浜は砂地という意味を含むため、重複表現(頭痛が痛い)だと思って使っていません。
岩礁湖岸の礁も岩の意味を含むため、岩湖岸で良いのではないかと思っています。

ナカセコカワニナとハベカワニナは宇治川を想定するとこんな感じですが、
水制に囲まれた泥底にもいますし、瀬田川や琵琶湖疏水にもいるので多様ではあります。

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チクブカワニナ、シノビカワニナ、モリカワニナ、コンペイトウカワニナ、
シライシカワニナ、タケシマカワニナの棲む島嶼です。ざっくり深場にいます。
モリカワニナを初めて捕ったのは、水深0.5mの浅場ですが、ここは特殊な水域です。
琵琶湖淀川水系固有種は、大まかに硬基質底と堆積物底の2つに分けられそうですが、
シノビカワニナの竹生島産は前者、北岸産は後者で違うため、この種はよくわかりません。

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カワニナ図鑑の採集ページへ載せた、垂直潜行の図ですが、ここでも少し書きます。
私は小学生時代にスイミングスクールへ通い、バタフライ以外はほぼ泳げるようになり、
中学生時代は水泳部で、1日7500mを泳いだこともあります。水泳は得意な方です。
素潜り(スキンダイビング・シュノーケリング)は、子供の頃に海で1回だけ試して、
排水が上手く出来ず、海水をがばがば飲んで、死にそうだった記憶が鮮明に残っています。

大人になってシライシカワニナを捕るため、マスク・シュノーケル・フィンを装着して、
沖の白石近くにアンカーを降ろした船から飛び込み、おもっきり湖水を飲んでしまい、
ほぼ溺れた状況になり、フィンの機能を無視して、平泳ぎで何とか沖の白石へ辿り着き、
岩にしがみ付きました。そしてPさんに見守ってもらい、20分ほど素潜りの練習をしました。
初心者が沖の白石に飛び込んで、素潜りの練習をしたのは、私くらいではないでしょうか。
何が言いたいかというと、水泳と素潜りは違う。過去の記事でも水泳に長けた人が、
素潜りは出来ませんでした。Mさんは素潜りは出来るが、水泳は苦手と言っていました。

素潜りが出来ない原因で、最も大きいのが勇気、そして少しの技術です。
水面から潜り始めると、1~2mは誰でも到達できます。3mくらいから急に命の危機を察して、
脳(扁桃体)から引き返せと命令が出ます。それを無視してより深くへ潜る勇気があるかです。
3mの壁の克服は全く出来ない人と、練習で少しずつ深さを伸ばせる人に二分されます。
全く出来ない人は諦めましょう。生まれ持った危機回避能力が高いのだと思います。

勇気のある果断な人は、潜る技術を覚えて、より楽に採集できるようになりましょう。
それがこの図ということです。斜め潜行はゆっくり深くなり、進む場所を常に目視するため、
気楽に潜ることが出来ます。しかし、捕る行為をする時間はほとんどありません。
垂直潜行は頭をおもりにして、湖底まで落ちて行くような感じで、逆立ちに成ります。
急激に水深が変わり、浮上時は頭上を見ないため、水面までの距離が長く感じます。
恐怖心に打ち勝つ勇気は必要ですが、効率的で何度も続けやすい潜り方です。

脳の命令を無視し続けるのは疲弊しますので、水深4~7mで垂直潜行をしばらく行ったら、
0~3mで斜め潜行するなど、交互に行うことで精神的に長時間続けることが出来ます。
私は8~9mまで潜っていますが、10m以深は無理です。ここにも壁があるのだと思いますが、
カワニナ採集は6m潜れば、たいていの種類は把握できるので、克服できなくても良いです。

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数日前にXへポストした焼き直しですが、産地を書き込んでここにも貼ります。
全てナカセコカワニナの成貝です。殻形態の変異幅が異様に広く、同じ種に思えないです。
右下方へ向かうほど、タテヒダカワニナに似ていますが、移行域も変な感じです。
瀬田川ではナカセコとタテヒダの交雑も見つかっていて、この個体はそうかもしれません。

タテヒダよりもナカセコの胎殻は、大きくて丸くて縦肋が太いために識別可能ですが、
胎殻を持たない個体は、同所的に見られるハベカワニナではない場合に、ナカセコとしている。
ようするに、瀬田川・宇治川・淀川・琵琶湖疎水で捕れた、カワニナ種群以外のカワニナ属は、
ハベかナカセコであって、ハベではなければ、ナカセコという消去法での識別になっている。

これが同定かは疑問だが、瀬田川の交雑地域を除いて、タテヒダの様な胎殻は見られないため、
同種という判断に至っている。もしもナカセコとタテヒダは、湖と川という異なる環境で、
生態型や表現型の可塑性によって違うだけならば、同種の方がしっくり来る気がする。
ただ、こういう累代飼育による結果もある。遺伝的には近いが異種関係のようです。
ひとまずここで言えるのは、丸っこいのだけがナカセコではないという認識が必要ですね。

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2025年1月21日にクロダカワニナ種群の分類が改訂されました。おめでとうございます。
クロダカワニナタジマカワニナサキガケカワニナユメカワニナの4種。
既に当ブログとカワニナ図鑑で紹介済みなため、特徴などについては触れません。
親殻の形態に傾向はありますが、分布情報がないと同定は無理だと思います。
特にクロダとタジマの識別は厳しい。移入や交雑のことまで考えると脳みそバーンです。
新種記載でカタカナ表記になり、一般的な視認性が上がって、保全には良いと思います。


追記 2025年01月27日
図に気になるところがあったので差し替えました。

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タテジワカワニナの真模式産地の記事では、詳しい場所を記しませんでした。
カワニナ図鑑の改定と同時に、日本産カワニナ属全種の模式産地を更新し、
タテジワ真模式産地も明かしたので、ここで改めて触れておきたいと思います。

初めてのタテジワ採集は2010年5月29日です。当時の手掛かりは2つの文献でした。
「びわ湖の底生動物」には2箇所の分布地点があり、そこが鵜川と北船木(E)でした。
「日本産淡水貝類図鑑1」には「縦肋が次体層より上にみられる」とありました。
鵜川ではタテジワとしても良い個体は捕れましたが、北船木(E)はハベ(現イボ)によく似て、
中間型じゃないかと思う微妙な個体ばかり。その後に北船木(E)で何度も採集しましたが、
鵜川のような個体は捕れず。2011年1月23日に Watanabe & Nishino (1995) を初読。

模式産地が北船木(E)だと知りました。もう10回は採集したでしょうか。見つかりません。
中途半端な納得できない個体はたくさんいます。模式産地は鵜川と間違えているかもとさえ、
思い始めてきました。さわだ君がタテジワなどのサンプリングをするようになると、
これは模式産地で本物のトポタイプを探さないと、中途半端な個体をタテジワとして使い、
誤同定であれば他との比較で、使えないデータになるかもと、危惧し始めました。


模式産地は北船木で間違いないとして、正確な場所はどこなのかです。
Watanabe & Nishino (1995) の地図はオオウラカワニナとクロカワニナでも触れましたが、
不正確な手書きです。「びわ湖の底生動物Ⅰ」や「びわ湖の底生動物Ⅲ」と照らし合わせ、
北船木(E)より僅かに北西かもと思いました。採集された1986年8月13日の地図や航空写真は、
見つかりませんでしたが、約10年前の1974~1978年の航空写真はありました。
現在とは車が走れそうな道、駐車場所は異なっていました。大まかに北船木(C・D・E)です。
Eでは散々やっていないことは分かっています。その他にA・B・F・Gも見つかっていません。

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そうなると可能性としてはCかDです。Cを2023年3月と6月にやって微妙な個体ばかり。
最後に残るのはDだけです。2023年8月に探したらホロタイプに似た個体がいたのです。
しかもEへ近付くほどに形態が変化して、中途半端な個体ばかりになりました。
とても狭い範囲だけど多く見られ、昔の道からも入りやすく、駐車しやすそうな場所でした。
琵琶湖のカワニナ類は、100m違えば別の場所の認識でしたが、今回もその状況でした。
タテジワの真模式産地は、Dの黄色く囲った浅場で、間違いないと判断しました。

翌年にUeno et al. (2024)が出版され、S. rugosa (タテジワ)を見た時、嫌な予感がしました。
サンプルの採集場所を調べると、北船木(E)だったのです。正確にはその水域の岸(青ピン)。
そしてサンプルの写真を見て、あーっやっぱりと思いました。私ならイボとする個体だ。
しかしイボとは系統が異なるようです。ホロタイプに近い真タテジワは調べられていないが、
私ならイボとする個体とは同一種なのだろうか。その場合に形態差は変異幅と見なせる。
それとも北船木にはイボ、イホ?、イボ×イボ?、タテジワ(未解析)の4ついるのだろうか。

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ホロタイプ画像は、さわだ君から頂いたもので、快く使わせてくれました(感謝)。
左2つがホロタイプと似たタテジワ、右2つが先の論文のイボ?疑惑と似た個体です。
イボ?は膨らみがやや強く、螺層角がやや広く、殻底肋がやや多く、左2つとは異なる。
次体層より上の縦肋も顆粒状で数も多くて違う。Watanabe & Nishino (1995) の、
パラタイプ2個体の画像とも全然違う。形態の記述や検索表も当てはまらない箇所が多い。

北船木(D)ではタテジワとイボ?が見られ、別種関係だとするならばやはり4ついるのかも。
さわだ君は2013年8月に一緒に捕った個体を持ち帰り、タテジワを研究中のようですが、
もう1年半くらい経ったのと、Ueno et al. (2024) の出版から、この問題に言及してみました。
他にもタテジワはクロカワニナやトキタマカワニナそっくりな個体がいる地域があります。
琵琶湖のカワニナ類は、近年にさわだ君を中心に、優秀な研究者・協力者のご尽力によって、
ほぼ解明されてきましたが、タテジワは最後に残った課題なのかもしれません。

タテジワの真模式産地を見つけるまで、13年も掛かりましたが、こうしてブログに公開して、
また引用もされずに、たくさん捕られて利用だけされるの、何かもったいない気もします。
タテジワのホロタイプは、貝殻しか残っていないため、遺伝子解析は出来ません。
これがタテジワの遺伝子ですと基準を作るならば、酷似個体を解析するべきだとは思います。
その一助にこの記事がなるのであれば、カワニナ好きとしては良かったと思いましょう。

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