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模式産地とは新種記載の際に、模式標本(担名タイプ)が採集された場所です。
カワニナ属の場合は、沖の白石のシライシカワニナ、南郷のナンゴウカワニナなど、
狭い地域にだけ棲む種があるとされているため、同一産地から得られた標本(トポタイプ)は、
他の種類と比較する際にとても大事です。しかし、模式産地はあやふやな場合も多いです。
例えばヤマトカワニナは「Lake Biwa, near Kiyoto.(京都の近くの琵琶湖)」です。どこだぁ。
外国人が1875年に採集して1876年に記載であれば、そんな書き方も致し方ないかもしれません。

Watanabe and Nishino 1995 ではオオウラカワニナ、クロカワニナ、フトマキカワニナ、
タテジワカワニナ、タケシマカワニナ、シライシカワニナ、ナンゴウカワニナ、
ホソマキカワニナの8種が新種記載されました。オオウラカワニナとクロカワニナは、
西浅井町大浦が模式産地とされています。大浦も広いです。記載論文の採集地の地図に、
75番のプロットがあり、そこは三位の浜(地先)あたりです。種ごとの地図でオオウラを見ると、
河原の浜(地先)あたりにプロットがあります。両地点は400mくらい離れています。
どちらもオオウラとクロが生息する水深2~4mではなく、5~10mある場所で異なります。
採集地と種ごとの地図は、それぞれ不正確な手書きで、粗雑なものなのです。

記載論文は「びわ湖の底生動物Ⅰ」の調査を基に記され、そちらの地図の方が正確です。
「びわ湖の底生動物Ⅲ」は調査場所が全てプロットされ、そこから75番の位置を推定し、
採集された水深2~4mを囲うと黄色の場所(黒崎)です。記載論文とは1.19kmも離れています。
カワニナ図鑑の生息地写真で、オオウラカワニナの模式産地とした撮影場所は、
八幡神社御旅所付近です。そこと黒崎は1.46kmも離れています。いつかは訂正します…。


日本産カワニナ属20+3種類の模式産地を地図に記しました。広域分布のカワニナ種群は、
大まかな範囲でも問題ないでしょうが、ヤマトカワニナ種群やタテヒダカワニナ種群は、
クロダカワニナを除いて、琵琶湖水系だけに分布するため、正確な模式産地は重要です。
そうした中でイボカワニナの模式産地が、琵琶湖に近い水田(流入小河川)としか分からず、
広範囲になってしまったのは残念です。基本的に記載論文から模式産地を特定しましたが、
他にも多くの文献を参考にしました。それを列挙すると大変長文になるのと、
個人ブログで簡単にまとめただけなため、すみませんがここでは割愛させて下さい。
先人の熱い記述に感謝しています。さわだ君にも助言を頂き感謝しています。

カワニナ属というマイナーな種類なので良いですが、いくら模式産地とは言っても、
淡水魚でこれをやると、乱獲などが懸念されるため、難しいだろうなと思いました。
ただ、クロダカワニナの模式産地の記事を出してから、まあまあ捕りに行った人がいるようで、
琵琶湖などの広大な場所は良いとして、狭い水路は気を付けないといけないなと思いました。