滋賀県の中流域で採集したナンゴウカワニナです。
これもオオウラカワニナと同じ生息地和名で困ってしまうのですが…。
典型的な個体は、他のカワニナ類と比べて、もこもことしています。
ナカセコカワニナと同様にナンゴウカワニナも、あまり興味がなかったのですが、
捕ってからとても興味が湧きました。これは色々な意味で面白いです。
まだ若い個体です。
軟体部です。どの種類も軟体部はよく似ていて、
カワニナ類の同定には、使えないかもというのは、わかった気がしました。
全員集合です。写真2枚の中央付近の長い個体だけは、ハベカワニナです。
同所にはチリメンカワニナがたくさんいました。チリメンはどこでもいるなぁ。
さて、面白いのはここからです。
これらが捕れたのは同じ狭い場所ですが、なんかバラバラのようにも見えますね。
左下と右下の個体を見て下さい。次体層に弱い縦肋(縦の筋)がやや斜めに走っています。
この2個体は見方によっては、細長くて特徴の弱いナカセコカワニナのようなのです。
中央下は次体層に弱い縦肋はなく、それとは違う螺肋(横の筋)が走っています。
記事最初の写真の個体は、不明瞭な細脈だけで、はっきりしたものはありません。
中央下と右下の個体は、体層の膨らみが全く異なります。
右下の個体はナカセコと言っても良いかもしれないものです。
それでは、この写真の12個体は、ナカセコとナンゴウが混じったものなのでしょうか。
「びわ湖の底生動物」でナカセコは、宇治川に生息するとだけあります。
これはナンゴウのいる瀬田川に、ナカセコの存在を認めていないことになります。
「日本産淡水貝類図鑑1」では瀬田川・宇治川・淀川・琵琶湖疏水に分布し、
かつては琵琶湖(南湖)にも分布していたという記述があります。
また、ナカセコのページにある琵琶湖疎水産は、ナンゴウにそっくりなのです。
結論を言うと、ナカセコ(1929年記載)とナンゴウ(1995年記載)は同種で、
ナカセコの細長いのを、ナンゴウとしたのではないかということです。
典型的なナカセコと比べると、確かに典型的なナンゴウは違って見えます。
それでも1箇所でとても多様な形状があり、両者の中間的という感じのもいることから、
この不明確で些細な違いが、分化途上なのか、生態型なのか、わかりませんが、
差し詰め、ナカセコカワニナ(ナンゴウカワニナ型)とするのが良いかもしれません。
オオウラカワニナでも書きましたが、少なくともナンゴウはS先生が教えて下さった、
独立種としては怪しいシリーズの1つだと思います。色々とご教授頂いた内容から、
私が深く言及すれば、ハベカワニナによく似ているのは、ナカセコカワニナ、
タテジワカワニナ、ナンゴウカワニナ、クロカワニナ、フトマキカワニナ、
そしてクロダカワニナと6種います。ハベカワニナを含めて7種です。
ハベを細分化すれば7種になり、おもっきりまとめれば、ハベ1種になります。
淡水魚で言えばヒガイが良い例です。
現在はカワヒガイ、ビワヒガイ、アブラヒガイの3種いるとされていますが、
「日本のコイ科魚類」でヒガイは細分化されていて、短頭型(トウマル)、
正常型(普通ヒガイ)の内湖型と外湖型、長頭型(ツラナガ)、
黄褐色のもの(アブラヒガイ)、淡紫褐色のもの(カマドヒガイ)の5型2亜型がありました。
後に短~長はカワヒガイ(琵琶湖以外)とビワヒガイ(琵琶湖)の2亜種(後に2種)にされ、
アブラヒガイは独立種とされました。カマドヒガイはしばらく謎だったのですが、
ビワヒガイとアブラヒガイの交雑が、カマドヒガイではないかとされています。
しかし、遺伝的にはビワヒガイとアブラヒガイはほとんど違いがなく、
単純に黒ぽいのをアブラヒガイと呼んでいるだけかもしれないのです。
このヒガイの件と同じように、ハベも独立種までは達していないが、
典型的なのを見比べた場合に、何か違うのでフトマキと呼んでみたり、
色々な呼び方になっているだけかもしれないのです。
今はまだ独立種に成り切れていない、とでも表現すれば良いでしょうか。
こんなのどこでもいるハベだ。ハベの中にある型だ。と分類学的に扱われるより、
15種ものビワカワニナ亜属という独立種が、琵琶湖淀川水系の局所的にいるとすれば、
ここにしかないフトマキだとする方が、琵琶湖淀川水系の環境を守るためには、
極めて大きな役割があると思います。そうした意味では成功だと思いますし、
少なくとも他と変わったのが、局所的にいることだけは、はっきりしているため、
こうしたものを、環境をひっくるめて、大切に守って行くべきだと思います。
あぁ長々と真面目に書いてしまった。気付けば1時間超もこの記事を書いてる。
なんかビワカワニナ亜属のまとめみたいですが、まだ全種を捕っていないので、
その後にまた何か書きたいなぁ(そもそも捕れるのか?)。潜水採集するの怖いよぉ~(笑)。
追記 2023年4月21日
当時はナンゴウカワニナで良かったのですが、現在はナカセコカワニナだと思います。