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同定

カワニナ科の同定(種類の特定)は極めて難しい。 それはタテヒダカワニナオオウラカワニナのように、 そもそも識別が出来ない、同種と考えられる種類や、交雑、遺伝子浸透、表現型の可塑性による変異など、複雑な要因が絡み合っている。 そうした個体も含めて識別する場合、典型的な個体以外は不可能であり、 何よりも「どこで捕ったか」という、分布情報が重要になる。 形態形質からオオウラカワニナに酷似しても、 大浦産ではなければ、タテヒダカワニナとするしかない。 現状は分布で同定するしかないのである。

●分布
地理的分布自然(在来)
シライシカワニナ琵琶湖北湖(沖の白石周辺)。
タケシマカワニナ琵琶湖北湖(多景島周辺)。
オオウラカワニナ琵琶湖北湖(北岸西側)にある長浜市西浅井町大浦(大浦湾)。
ナンゴウカワニナ瀬田川。
クロカワニナ琵琶湖北湖(長浜市西浅井町菅浦〜高島市マキノ町海津)。
ヤマトカワニナ(チクブカワニナ型)琵琶湖北湖(竹生島・多景島・沖の白石周辺)。
ナカセコカワニナ瀬田川、宇治川、琵琶湖疏水。淀川は絶滅?
モリカワニナ琵琶湖北湖(北岸、竹生島周辺)。
コセイカワニナ琵琶湖北湖(北岸、長浜市びわ地区、高島市安曇川地区、大津市、近江八幡市、沖島周辺)。余呉湖。
タテジワカワニナ琵琶湖北湖(高島市今津地区〜大津市志賀地区)。
フトマキカワニナ琵琶湖北湖(東岸)。余呉湖。
ホソマキカワニナ琵琶湖北湖(長浜市びわ地区〜守山市、高島市〜大津市)、琵琶湖南湖(西岸)。
イボカワニナ琵琶湖北湖、琵琶湖南湖。瀬田川(瀬田川洗堰上流)に生息する可能性がある。
タテヒダカワニナ琵琶湖北湖、琵琶湖南湖、瀬田川。琵琶湖疏水に生息する可能性がある。
カゴメカワニナ琵琶湖北湖、琵琶湖南湖。瀬田川(瀬田川洗堰上流)。
ヤマトカワニナ(肋型)琵琶湖北湖、琵琶湖南湖、瀬田川(瀬田川洗堰上流)。余呉湖。
ヤマトカワニナ(結節型)琵琶湖北湖、琵琶湖南湖、瀬田川。余呉湖。宇治川、淀川、琵琶湖疏水は絶滅?
ハベカワニナ琵琶湖北湖、琵琶湖南湖、瀬田川、宇治川、淀川、琵琶湖疏水。余呉湖。
クロダカワニナ本州(静岡県〜岡山県)及び四国(徳島県)。
チリメンカワニナ本州・四国・九州。北海道に生息する可能性がある。
カワニナ北海道・本州・四国・九州・南西諸島。
局所から広域の順に並べた。琵琶湖淀川水系には21種類全てが分布する(地図)。 それ以外の地域はカワニナチリメンカワニナが大半だが、 この2種は同定が難しい上に、交雑や隠蔽種が含まれている可能性が高く、難解を極める。

●生息環境
水深3m以
タテジワカワニナ
クロダカワニナ
ナンゴウカワニナ
フトマキカワニナ
カワニナ
チリメンカワニナ
ナカセコカワニナ
ヤマトカワニナ(肋型)
ヤマトカワニナ(結節型)
クロカワニナ
オオウラカワニナ
ホソマキカワニナ
イボカワニナ
ハベカワニナ
タテヒダカワニナ
ヤマトカワニナ(チクブカワニナ型)
モリカワニナ
タケシマカワニナ
シライシカワニナ
コセイカワニナ
カゴメカワニナ
底質
シライシカワニナ
タケシマカワニナ
モリカワニナ
ヤマトカワニナ(チクブカワニナ型)
ヤマトカワニナ(肋型)
ヤマトカワニナ(結節型)
ナカセコカワニナ
タテヒダカワニナ
クロカワニナ
ナンゴウカワニナ
オオウラカワニナ
タテジワカワニナ
フトマキカワニナ
イボカワニナ
ホソマキカワニナ
コセイカワニナ
クロダカワニナ
カゴメカワニナ
ハベカワニナ
カワニナ
チリメンカワニナ
生息する水深や底質は、種類によって多少の違いがあり、同定の参考になる。表の黒色は通常で、灰色は希に出現する。 採集した底質がコンクリートなどの場合は、その周りの環境を参考にすると良い。

●形態
殻底肋数123456789以上
ヤマトカワニナ(チクブカワニナ型)
オオウラカワニナ
ホソマキカワニナ
タテジワカワニナ
ヤマトカワニナ(肋型)
モリカワニナ
イボカワニナ
タテヒダカワニナ
カゴメカワニナ
ヤマトカワニナ(結節型)
コセイカワニナ
クロカワニナ
タケシマカワニナ
ナカセコカワニナ
ナンゴウカワニナ
ハベカワニナ
フトマキカワニナ
シライシカワニナ
クロダカワニナ
チリメンカワニナ
カワニナ
次体層の縦肋
カワニナ
クロカワニナ
フトマキカワニナ
ホソマキカワニナ
タケシマカワニナ
ナンゴウカワニナ
クロダカワニナ
ナカセコカワニナ
タテジワカワニナ
チリメンカワニナ
イボカワニナ
シライシカワニナ
カゴメカワニナ
コセイカワニナ
ハベカワニナ
ヤマトカワニナ(結節型)
ヤマトカワニナ(肋型)
タテヒダカワニナ
モリカワニナ
オオウラカワニナ
ヤマトカワニナ(チクブカワニナ型)
殻底肋数と次体層の縦肋は、を参照して頂きたい。 表の黒色は通常で、灰色は希に出現する。 カワニナ科は殻底肋数(殻底にある螺肋の数)が重要な計数形質になり、 定説ではヤマトカワニナ亜属は5本以下、 カワニナチリメンカワニナは6本以上、 その中間にクロダカワニナとされるが、 実際はヤマトカワニナ亜属には6〜7本が出現する。 従来から重要な識別点として用いられる胎殻は、雌の成貝で寄生虫感染の無い健康な個体にしか使えず、 数・大きさ・形状・色彩などは、ばらつきが著しい。胎殻は傾向的な特徴として捉えることが望ましい。 また、胎殻を確認するために、茹でて解剖することで、再放流や飼育は出来ない。 更に、外見から雌雄の判別は難しく、雄だった場合は無意味な作業となる。

●まとめ
種類簡潔
Aカワニナ全国に分布し、殻底肋6本以上で、縦肋が無い。
チリメンカワニナ全国に分布し、殻底肋6本以上で、縦肋が有る。
Bハベカワニナ琵琶湖淀川水系に分布し、弱い縦肋(5〜8個の顆粒)が有り、体層が大きい。
ナカセコカワニナ瀬田川、宇治川、琵琶湖疏水に分布し、太短いハベカワニナ
ナンゴウカワニナ瀬田川に分布し、ハベカワニナナカセコカワニナの中間型。
クロカワニナ琵琶湖北湖(菅浦〜海津)に分布し、黒色が強く、縦肋と螺層の膨らみが弱いハベカワニナ
フトマキカワニナ琵琶湖北湖(東岸)に分布し、縦肋が弱く、体層が大きいハベカワニナ
タテジワカワニナ琵琶湖北湖(西岸)に分布し、縦肋の間が広いハベカワニナ
タケシマカワニナ琵琶湖北湖(多景島周辺)に分布し、縦肋が極弱く、螺肋がやや強いハベカワニナ
シライシカワニナ琵琶湖北湖(沖の白石周辺)に分布し、縦肋が弱く、螺肋が強いハベカワニナ
Cタテヒダカワニナ琵琶湖全域に分布し、ハベカワニナに似るが、縦肋が強く、体層が小さく、細長い。
オオウラカワニナ琵琶湖北湖(大浦)に分布し、次体層の縦肋数9〜13本で、縦肋の強いタテヒダカワニナ
ホソマキカワニナ琵琶湖全域に分布し、砂や泥底に多く、縦肋が無いか弱いタテヒダカワニナ
Dヤマトカワニナ(結節型)琵琶湖全域と瀬田川に分布し、岩石底に多く、縦肋は3〜5個の顆粒で、太短い。
ヤマトカワニナ(肋型)琵琶湖全域と瀬田川に分布し、ヤマトカワニナ(結節型)の縦肋を完全には分割せずに繋がる。
ヤマトカワニナ(チクブカワニナ型)琵琶湖北湖(竹生島・多景島・沖の白石周辺)に分布し、ヤマトカワニナ(結節型)より顆粒が大きい。
Eカゴメカワニナ琵琶湖全域に分布し、水深3m以深に多く、次体層の縦肋数20本以上で、顆粒は細かい籠目状。
コセイカワニナ琵琶湖北湖に分布し、水深3m以深に多く、カゴメカワニナに似るが、顆粒は粗い籠目状。
Fモリカワニナ琵琶湖北湖(北岸、竹生島周辺)に分布し、C群とD群の中間型。
Gイボカワニナ琵琶湖全域に分布し、次体層の縦肋数20本前後で、縫合の括れが強く、螺層数は3.5巻き前後。
Hクロダカワニナ静岡県〜岡山県に分布し、殻底肋4〜8本で、次体層より上方に縦肋が有る。
表は種類の特徴を簡単に解説した。まず8群(A〜H)の特徴を憶えることで、全21種類の同定が容易になる。 Aは広域分布する普通種。Bはハベカワニナに似る仲間。 Cはタテヒダカワニナに似る仲間。 Dはヤマトカワニナの3型。 Eは水深3m以深に生息。F、G、Hはそれぞれの特徴がある。

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