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和名ナカセコカワニナ
学名Semisulcospira (Biwamelania) nakasekoae Kuroda, 1929
分類カワニナ科 カワニナ属 ヤマトカワニナ亜属 ナカセコカワニナ種
写真
分布瀬田川、宇治川、淀川。
環境岩盤や礫底で水流の速い場所に多い。生息条件の良い礫底には高密度で見られる。 瀬田川へ注ぐ支流では、河口から約150mほど上流にも見られた。瀬田川よりも水温が低く、 流れが弱く、水深が浅いなど、随分と異なる。水溜り状で流れの全く無い砂底でも見られた。
食感は普通で、毒性を疑うほど極めて苦く、それ以外の味は薄い。
形態 殻底肋3〜5本、次体層の縦肋数17本前後、螺層数(体層と次体層を含む)は1.5〜4.5層で2.5層が多い。 螺層角が日本産カワニナ科で最も広く小型。縦肋と弱い螺状脈によって顆粒化する個体が多い。 ナンゴウカワニナに酷似するが、より太短くした印象を受ける。

文献2によると、縦肋が斜めに走ることが特徴として挙げられているが、 写真Db079002の次体層にある縦肋は垂直的である。 また、縦肋のあるヤマトカワニナ亜属の多くは、垂直的よりはやや斜めであることが多く、この特徴に重き置いて同定することは出来ない。

螺層数は最低でも1.5層(体層と次体層の一部)あり、文献2に記されている 体層だけのものは見つからない。体層だけの状態でカワニナ科が生きていられるとは想像し難い。
備考 本種とナンゴウカワニナの識別はほぼ不可能なため、 瀬田川に架かる唐橋〜鹿飛橋の個体をナンゴウカワニナとし、 それより下流の個体を本種と見なし、その情報だけを記した。 なお、唐橋より上流には典型的な両種は見られず、ナンゴウカワニナハベカワニナの中間型が多い。

瀬田川洗堰(南郷洗堰)や天ヶ瀬ダムが出来る以前は、 琵琶湖南湖(南岸)から宇治川にかけて、流速が速かったと考えられ、 細長い形状は水流の抵抗を受けやすいため、徐々に太短くなったハベカワニナが、固定されたと想像できる。 そのうち、比較的に流速の遅い瀬田川の砂礫底には、 よりハベカワニナに近い形態のナンゴウカワニナが、 流速の早い宇治川の岩盤や礫底には、本種が残存したと考えられる。

文献2で本種は琵琶湖南湖(絶滅?)・琵琶湖疏水・瀬田川・宇治川・淀川(絶滅?)に分布するとあるが、 文献9では宇治川にしか認めていない。 文献2の琵琶湖疏水産の写真は殻底肋が3本で、同文献で4〜5本としている本種とは異なるが、 ナンゴウカワニナには酷似する。 文献2は本種にナンゴウカワニナを含め、 文献9は本種とナンゴウカワニナを別種にしたと想像できる。 本種とナンゴウカワニナは、典型的な個体を比較すると違いを見い出せるが、 変異幅が極めて広く、両種の中間的な個体も見られるため、両種の違いは不明確である。

本種は文献7によると、 流速の著しいところに丸太型、やや緩やかなところに細長型が生息しているとある。 瀬田川から宇治川は、流速に比例するかのように、ハベカワニナナンゴウカワニナ、本種が分布する。 これは種の棲み分けではなく、琵琶湖南湖(南岸)から淀川に生息するハベカワニナの生態型の疑いがある。 写真Db083001〜012の琵琶湖疎水では、 流速の著しいところに丸太型が見られ、そこから約50mほど移動したやや緩やかなところに細長型が見られる。 この細長型はナンゴウカワニナに酷似する個体や、 ハベカワニナに近いものまで見られる。

チリメンカワニナ写真Ba003001は全て生貝。 左上がよく見られる個体で、それ以外は殻頂が欠け、螺層角が広く小型。特に左上から3番目の個体は、本種のような形態をしている。 こうした現象はチリメンカワニナだけではなく、ハベカワニナで見られても不思議ではない。 そう考えるとハベカワニナの生態型や環境変異を、本種としているかもしれない。 本種は螺層角が広くて小型化したハベカワニナ類の一型と考えられる。

ハベカワニナ類(本種、 ナンゴウカワニナハベカワニナクロカワニナフトマキカワニナタテジワカワニナタケシマカワニナシライシカワニナの8種)の型とも言える本種だが、 記載は最も早いため、シノニムとして扱われる場合は、本種の学名が残ることになる。

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