新種
レイホクナガレホトケドジョウ




レイホクナガレホトケドジョウ
Lefua nishimurai Katayama in Katayama and Sawada, 2024

ナガレホトケドジョウ嶺北集団が2024年9月25日に片山君と澤田君によって新種記載されました。これまで関わって下さった方々に深く感謝を申し上げます。 献名という名誉を頂いて率直に嬉しいです。それと同時にこれから始まるであろう、採集圧による絶滅を危惧し、このページを急造しました。
初見A川(2018年4月28日以降未確認)
2018年4月28日に福井県嶺北地方のA川でT.Nagaさんとアジメドジョウを狙って採集。 T.Nagaさんが1個体ホトケドジョウ(以下、ホトケ)のような魚を捕られていました。 その魚は吻部に黒色縦帯があり、背鰭や尾鰭に目立った暗色斑点がありません。 ナガレホトケドジョウ(以下、ナガレ)のようですが、何だかホトケとの中間的です。 ナガレ日本海集団の存在を思い出しました。この集団はホトケ×ナガレで両者の中間的な形態だろうと思いました。しかし、ホトケやナガレ(日本海集団含む)よりも眼が小さく、背側に寄っているのです。 交雑では生み出せない形質です。それに気が付いた時に「やばい」と思いました。 当時のツイート(Twitter)です。 やばいと書いても伝わらないと思って、後で眼の位置が分かる上からの写真も載せています。この個体はある方に調べてもらいたいと思い、T.Nagaさんにお願いして頂きました。 結局は死なせてしまってエタノール標本になりました(後に遺伝解析されている)。
B川(絶滅)
2018年9月1日にササキ君と嶺北のB川でナガレを採集して、ホトケドジョウ属に精通した方々へ送りました。その反応は様々でしたが、私の未記載種かもしれないという考えは、まだ信じてもらえていない印象でした。その後にC川でも採集して送りました。 嶺北集団と名付けて他の集団(山陽集団、紀伊・四国集団、日本海集団)と区別しました。日本海集団とも形態は異なると判断しました。 その後に紆余曲折ありましたが、2021年3月に共著で報告しました。 ある方が中心に新種記載の話はありましたが、コロナ禍で考え方の相違などあって立ち消え。 そこで2021年6月に嶺北集団の生息範囲を調査していた片山(ヤマノカミ)君に話を持ちかけました。 期限は2022年秋までに新種記載です。引き受けてくれました。 片山君はその後に生息範囲を報文化しています。 結局は2022年秋にリジェクトで新種記載されず。再投稿されることなく2023年夏になっていました。 片山君単著では荷が重いと考えて、澤田(さわだ)君に相談して、共著者になってもらいました。 円滑に進むと思いましたが2回目のリジェクト。3回目にしてようやく新種記載(2024年9月25日)されました。未記載種と気が付いてから6年5箇月が経っていました。
一沢で数匹捕ったら絶滅する可能性もある
レイホクは4水系で見つかっています。A川水系は2018年4月28日にT.Nagaさんが採集された1個体以外は捕れていません。 その後に何度も同じ場所を調査し、同水系の沢へ入って探すも見つかっていません。原因は不明です。 B川水系は2018年9月1日にササキ君と西村が採集し、2020年8月9日に片山君が採集したのを最後に確認できません。 その後に同じ場所や水系を何度も調査しましたが見つかっていません。原因は河川工事で激減したところに、生息地公開による乱獲だと思われます。 C(H・J・K)川水系は多くの人が入ったようで減り続けています。一回の調査で2〜9個体しか確認できません。 H川は2024年3月に6個体を確認して逃がし、2024年08月に片山君らは6個体を確認して逃がしています。この川には6個体しかいない可能性があり、それを捕れば絶滅すると思います。 D(E・F・G・I・L)川水系は2020年11月29日に片山君と西村が確認した1個体を最後に捕れていません。D水系のE・F・G・L川は1〜7個体を確認。 I川は16個体を確認し、レイホク生息河川の中で、唯一の二桁確認数です。そこも生息水域の半分ほどが土砂崩れで埋まって減りました。現在は二桁も見られません。
本当に「やばい」ので観察だけでお願いします!
レイホクの生息範囲は片山君をはじめとする、多くの方々のご協力によって、ある程度の全貌が見えてきました。 その結果はここまで生息数の少ない魚はいないのではないだろうかです。A〜L川の全確認個体を合わせても100個体未満です。 嶺北地方でナガレ(現レイホク)が確認されたのは2005年で、他の魚類と比べると長く見つかっていませんでした。 2018年にナガレが新種記載された論文(Fig. 12.)にも、 嶺北地方は分布域に入っていません。これは記載者と査読・編集者が、その存在を知らないほど、報告が少なかったということです。 新種記載されたことで「私も捕ってみたい!」という気持ちはとても良くわかります。私も立場が違えば同じ気持ちになったと思います。 しかし、その気軽な採集は絶滅させる恐れが高いです。どうか持ち帰らずに観察だけでお願いします。 人が入っている疑いが高い場所は、怪我をしている個体をよく見かけます。これは胴長とたも網で石などを蹴ったことが原因だと思われます。 出来れば捕獲することなく、上から観察や撮影だけにして下さい。 私もこれまでは調査と記載の為のサンプルが必要で、止むを得ず採集を行うこともありましたが今後は控えます。 現在は保全策を模索している最中です。新種記載がきっかけで絶滅種†にしたくはありません。よろしくお願いいたします。
(2024年9月26日公開)


参考・引用文献 ※不備がある場合は改めますのでお手数ですがご連絡ください。
□ 日本産魚類検索 全種の同定 第三版 中坊徹次編 東海大学出版会 2013.2.26
□ Hosoya K, Ito T, Miyazaki J (2018) Lefua torrentis, a new species of loach from western Japan (Teleostei: Nemacheilidae). Ichthyological Exploration of Freshwaters 28: 193-201.
□ Ito T, Hosoya K, Miyazaki J (2019) Lefua tokaiensis, a new species of nemacheilid loach from central Japan (Teleostei: Nemacheilidae). Ichthyological Research 66: 479-487.
□ Miyazaki J, Tamura T, Hida S, Sakai T (2018) Local introgression of mitochondrial DNA in eight-barbel loaches of the genus Lefua (Balitoridae, Cypriniformes). Zoological Science 35(2): 140-148.
□ 片山優太 (2021) ナガレホトケドジョウ嶺北集団の分布調査:福井市初記録. 福井市自然史博物館研究報告 68: 53-56.
□ 中島 淳・西村俊明・井藤大樹・宮崎淳一・大井和之・平川周作 (2021) 福井県嶺北地方で発見されたナガレホトケドジョウの新たな地域集団. Ichthy, Natural History of Japan 6: 33-37.
□ Katayama Y, Sawada N (2024) Integrative taxonomy revealed a new species of Lefua (Teleostei, Nemacheilidae) from Fukui Prefecture, Japan. Evolutionary Systematics 8(2): 247-260.