日本産ヨシノボリ属 Rhinogobius  |
1 | ゴクラクハゼ | R. giurinus | |
2 | カワヨシノボリ | R. flumineus | |
3 | オオヨシノボリ | R. sp. LD | |
4 | ヒラヨシノボリ | R. sp. DL | |
5 | ルリヨシノボリ | R. sp. CO | |
6 | アヤヨシノボリ | R. sp. MO | |
7 | トウヨシノボリ | R. sp. OR | |
8 | オガサワラヨシノボリ | R. sp. BI | |
9 | ビワヨシノボリ(仮称) | R. sp. BW | |
10 | シマヨシノボリ | R. sp. CB | 九州以北集団 |
琉球列島集団 |
11 | クロヨシノボリ | R. sp. DA | 屋久島以北集団 |
琉球列島集団 |
12 | キバラヨシノボリ | R. sp. YB | 奄美集団 |
沖縄島集団 |
八重山集団 |
13 | アオバラヨシノボリ | R. sp. BB | 東シナ海側集団 |
太平洋側集団 |
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■はじめに
日本のハゼ科ヨシノボリ属は13種に大別されていますが、
ゴクラクハゼとカワヨシノボリ以外は学名もなく分類は混沌としています1)。
ウシヨシノボリとは1998年に報告2)された
ヨシノボリ類(以下、ゴクラクハゼを除く日本産ヨシノボリ属を示す)と同一で、
一般にその存在は認知されておらず、牛歩のごとくで実態の詳細までは把握されていません。
そこでまずはウシヨシノボリという存在を広く知ってもらうことで、
少しでも彼らに役立つことを願って当ページを公開しています。
ウシヨシノボリはアロザイム分析によりどのヨシノボリ類とも3遺伝子座で遺伝子の置換があり、
全く別種である可能性が報告されています2)。
またヨシノボリ類11種のmtDNAの系統樹で、
他のヨシノボリ類と異なる結果が示されています3)。
将来的には学名が決まり新種として改めて報告される可能性が高いと思われます。
■出会い
私は中学生時代に毎月1回程度は名古屋市にある観賞魚店(現在は廃業)を覗きに行っていました。
店内にはモロコと称して大量のモツゴが売られており、1000尾に1尾ほどヨシノボリ類が混じっていました。
飼育するため何度か購入または無料で譲ってもらいました。
当時は無知でしたが業者から安易に淡水魚を購入したことを後悔しています。
ヨシノボリ類の種類を調べようと発行されて間もない
「日本の淡水魚」6)で調べました。
これが1990年頃だったと記憶しています。しかし該当する種類が見つからず、
それから2〜3年間に複数の書籍で調べましたが、どこにも紹介されていないことが判明しました。
気掛かりになり稚魚用の産卵箱にそのヨシノボリ類を入れ、
箸で突っつきながら色々な角度からビデオカメラで2分間ほど記録撮影しました。
現在もそのビデオテープは保存してありますが、確認したところ間違いなくウシヨシノボリでした。
更に2〜3年が過ぎて研究者に生体を渡して同定を依頼しましたがわからないという回答でした。
他の方にも実見して頂きましたが種類を特定される方はおられませんでした。
購入した店によるとモツゴを売りに来られる方の中に混じるもので、
採集地は店からそれほど遠く離れた場所ではないと教えて下さいました。
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■魚名
ウシヨシノボリ(略称:ウシヨシ)とは私が中学生時代に他のヨシノボリ類と区別するため使っていた名称です。
私はウシモツゴが好きで形態的特徴が他のモツゴ属の中でも寸詰りで、
それがこの魚にも当てはまると思いウシヨシノボリとしたものです。
現在この魚には学名はもちろん和名(俗名)や仮称すらないため、
当サイトでは「ウシヨシノボリ」という仮称(学名が未決定であるため標準和名には出来ないがそれと同等に相当する)を提唱して他のヨシノボリ類と区別しています。
数年前に仮称と言えど勝手に名前を付けるのは好くないという趣旨の電子メールを頂きました。
理由として分類学者は「名前をつける」という行為に敏感で、疎まれる対象になるのではないかという危惧でした。
私は当ページを公開する以前よりそれを承知していましたが、
ヨシノボリ属の一種とすると漠然とし、何種類も心象できてしまいその存在が軽視されるため、
早期に名前という分かり易い形で示すことによって、他のヨシノボリ属の一種との混同や混乱を避け、
現状把握や保護など様々な点において意義があると考えた結果です。
未記載種の報告から何年も何十年も経った後で分類学者が和名を提唱し、
この間にウシヨシノボリの生息状況が悪化しても、
命名した分類学者が責任を持って保護してくれる保証はありません。
私は分類学者から疎まれようがこの魚のことを考えてあえて仮称を提唱したのです。
ヨシノボリ属に分類される一つの種類として「ヨシノボリ属の1種」と記されているのを見かけますが、
正しくは「ヨシノボリ属の一種」で1種を漢数字で記します。
ヨシノボリ属を2種確認した。ヨシノボリ属を2種とした。
などはアラビア数字でも使えますが「ヨシノボリ属の2種」という複数に用いる日本語はありません。
これは一種そのものが熟語と成して意味を持つためで、一応を1応と記すのと同じ誤りになります。
■地理的分布
伊勢湾と三河湾に注ぐ水系(渥美半島を除く)に分布します。これら以外で情報をお持ちな方
は電子メールで
ご教示ください。この分布域はネコギギやウシモツゴとほぼ同じです4)。
主に河川の中流域から下流域それに連絡する水路や池、丘陵地の沢を塞き止めた溜池などで見られます。
私は愛知県と岐阜県のみですが、どんすけさんは三重県でも捕獲されています。
その個体は写真集の三重県Au-01〜03(飼育個体:2003年4月〜2004年11月)に掲載させてもらっています。
分布域のうち特に濃尾平野は面的に広く見られるいわゆる普通種です。
現在のところ保護する程度には至っていないと考えられます。
ウシヨシノボリは近年まで未報告だったことを考えると国外移入種の可能性もありますが、
ヨシノボリ類は誤同定しやすくトウヨシノボリに似ているため混同されていたとも推測できます。
私が知る限りでウシヨシノボリと考えられる写真が最も早い年代で掲載された紙媒体は、1994年8月27日発行の
「身近な水辺 ため池の自然学入門,101pp」7)
でヨシノボリと記されています。解説には1953年に知多半島北部で確認された30種類のうち、
数量的にも多くごく普通に採集できた13種類に、ヨシノボリ(ウシヨシノボリかどうかは不明)が含まれています。
ウシヨシノボリの分布域にはシマヨシノボリ、オオヨシノボリ、トウヨシノボリ、
カワヨシノボリなどのヨシノボリ類が報告され5)、
このうちトウヨシノボリと希にカワヨシノボリが同所的に見られます。
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■生息場所

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純淡水域で止水または静水を好むようですが、
主生息地の溜池から流下したと思われる個体が流れのやや速い場所でも見られます。
水深は約0.2〜1.5mほどの浅い場所に多く、透明度は澄み切っていたり濁りが著しい場所まで様々です。
また生活雑排水の直入により一時的に酷く汚れる環境にも生息しています。
底質は泥・砂・汚泥・堆積落葉・コンクリートなどに多く、普段はそうした場所でじっと身を潜めています。
カワヨシノボリが生息するような中礫より大きな礫底で泥も少ないような場所では確認していません。
水温は年間を通して15℃ほどの湧水のある場所から、真夏には30℃以上になる都市型の水路まで見られます。
透明度・底質・水温に特別な傾向は認められません。
海に繋がる川幅の広い河川では水制や岸寄りの流れのない場所で見られますが、
塩分の影響がある汽水域では一度も捕獲したことがありません。
また勾配がきつく遡上が不可能と思われる丘陵地の溜池では、
魚類がウシヨシノボリしか確認できないこともあります。
これらからウシヨシノボリは両側回遊魚や陸封魚ではなく純淡水魚と考えられます。
たも網による採集ではウシヨシノボリとトウヨシノボリが同時に捕れることも珍しくなく、棲み分けしている印象を受けません。
右の写真は平野部にある池を埋め立てしている様子で、多数生息していましたが現在は埋め立てが完了しています。
ウシヨシノボリは人間の生活圏と同じ場所に多く、人間活動の影響を受けやすい状況下にあります。
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■飼育と行動
三通りの移動方法 |
枝豆をくわえる雌 |
雌の餌を雄が横取り |
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水路などで上から覗き込むとトウヨシノボリは逃げ惑ったり影に隠れようとしますが、
ウシヨシノボリはじっとしているか泥に潜ることが多いです。
小さな容器にトウヨシノボリとウシヨシノボリを入れると、
トウヨシノボリは落ち着きがなく動き回りますが、ウシヨシノボリは落ち着きがあり対照的です。
また飼育下で喧嘩をすることはほとんどなく、他魚の動向に無関心な様にも思えます。
気が荒く喧嘩をよくするトウヨシノボリとは顕著に異なる特徴だと言えます。
東海地方の溜池などの止水域には、陸封性の矮小化したトウヨシノボリが生息し、
夏場は1.5cm程の個体が中層〜上層付近で浮遊生活している光景を目撃しますが、
同程度のウシヨシノボリでは下層や障害物付近を中心に行動しています。
飼育下でもトウヨシノボリは平常時に水槽の中層付近を数分間ほど浮遊する様子を見かけますが、
ウシヨシノボリは下層や障害物付近を中心に行動し、数分間も浮遊する様子はほとんど観察されません。
ただし飼育環境の違いによりこれらは変化するため一概には言えません。
飼育中は冷凍赤虫や配合飼料や枝豆などを捕食し、自然下でも同様に雑食性ではないかと思われます。
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■産卵
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旋回して卵を守る雄 |
胸鰭で新鮮な水を送る |
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飼育下では水温調節を行わない名古屋市の環境で、
4月27日に植木鉢の破片の下に卵を確認し、14日後の5月10日に全て孵化しました。
この間は雄が卵を守り他の個体が近づくと追い払います。
卵の大きさから小卵型8)と考えられました。
自然下では3月下旬に婚姻色が現れた雄と、腹部が膨れた雌を捕獲しています。
その個体は写真集の岐阜県Au-13〜16に掲載しています。
産卵の最盛期は4〜5月頃と推定され、他のヨシノボリ類よりもやや早く始まるようです。
産卵確認後に同じ産卵床において卵の増加が見られたことがあり、追加産卵があったものと考えられました。
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■利用
他の魚種とウシヨシノボリを区別するための地方名は聞いたことがなく、
この魚に対して地域の方が無関心であることを示していると思われます。
ウシヨシノボリの分布域ではヨシノボリ類を食用にすることはほとんどありません。
試しに時雨煮にして食してみたところ臭みはなく淡白で特徴のない味でした。
観賞用として出回ることもほとんどなく需要も低いと考えられ、
現在のところトリコやマニアによる乱獲は起き難いと思われます。
今後はオガサワラヨシノボリのように生息地公開によって
研究者による採集圧4)が起きないことを願います。
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■形態

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全長3〜4cmで成熟します。5cmを超える個体は希で雌は雄よりやや小さい傾向にあります。
愛知県C地域にある丘陵地の小さな溜池において、7月に無作為に捕獲した55個体の全長は1.7〜3.4(平均2.8)cmでした。
ヨシノボリ類の中では最も吻が短いと考えられ、通常は側面から見ると上唇よりも下唇が僅かに突き出します。
第1背鰭は伸長しません。腹鰭は直線状に伸びます。
鰭棘条を横切る暗色の点列が、第1背鰭に2条、第2背鰭に2〜4条、尾鰭に4〜6条、希ながら胸鰭に4条あり、
暗色は黒紫色から黒色でその間には明色の白色から黄白色が入ります。
胸鰭基部には不明瞭な暗色斑が見られることが多く、尾鰭基部には一定の特徴がある目だった暗色斑は見られません。
体側には淡黒色でごく小さな点が不規則に並び、迷彩のような独特な斑紋になっています。
眼の下から上唇基部にかけて淡黒色の線が多くの個体で現れます。これら前述した特徴は雄雌とも見られます。
雌の腹部は白色です。雄は間鰓蓋骨から下鰓蓋骨に橙色が入ります。
婚姻色として第1背鰭の前端が橙赤色から黄色になり、通常は2条ある縞模様が明色部まで暗色が入り込み不明瞭になります。
第2背鰭の前端は僅かに明色部があり、次に橙赤色から黄色が淡く細い条として現れます。
尾鰭の縁は僅かに明色部が取り囲み次に橙赤色から黄色が現れます。
臀鰭の前端は僅かに明色部が現れ次に橙色から赤色に彩られます。
頬にはシマヨシノボリを彷彿させるミミズ状斑を短くしたものが赤黒色で現れることがあります。
下唇が黄色になることもあります。何れの特徴も様々な原因により変異があります。
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■簡易な同定方法

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ウシヨシノボリと形態的な特徴が類似する魚種としてカワヨシノボリ、ビワヨシノボリ、トウヨシノボリが挙げられます。
カワヨシノボリは胸鰭の鰭条数15〜17(18)で6)それ以上を有する3種とは明確に区別できます。
ビワヨシノボリは頭背面に鱗がない1)ことで3種と区別できるようです。
ビワヨシノボリの雄は第2背鰭・臀鰭・胸鰭が著しく伸長する1)ようですが、
つじもとさんによると飼育下で成長させると容易に見られるが、野外個体ではなかなか見られない特徴のようです。
ウシヨシノボリとトウヨシノボリの雄は飼育下で成長させても伸長することは希でその程度も著しくありません。
ビワヨシノボリとトウヨシノボリの体側には6〜7個の暗色の
横斑がある6)ことが多いですがウシヨシノボリは不明瞭です。
ウシヨシノボリとトウヨシノボリは数値化できる形質や有無的な特徴が互いに似ており、
不安定かつ変異の多い色彩を重視して同定することになります。
全長1.5cm以上の雌と一部の雄は、第1背鰭に2条ある暗色の縞模様が明瞭ですが、
トウヨシノボリは全くないか極めて不明瞭なため大きな判断材料になります。
一部の雄は縞模様の明色部まで暗色が入り込んで不明瞭となりますが、
第1背鰭の前端が橙赤色から黄色になることが多く、それと異なる大半のトウヨシノボリと区別できます。
トウヨシノボリの雄も似た色彩になることもありますが、第1背鰭の第3棘より後部にある条間膜まで現れることは希で、
光るように見える淡青色が入り込み、第2背鰭などにも同様な色彩が見られることでウシヨシノボリと区別できます。
トウヨシノボリは尾鰭に明瞭な橙色部が見られることもありますがウシヨシノボリには見られません。
なお色彩は暗色の縞模様などを除いてホルマリン10%固定後は消失します。
見比べた試料が不十分ながら腹鰭はウシヨシノボリが直線状に伸び、トウヨシノボリは前端が外側に開き、
接地面がより広く吸着力も強いように思えます。
これらの特徴でも判然としない場合は形態の項と照合するとたいてい同定できます。
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■写真集
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■紙媒体とWeb媒体

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ウシヨシノボリを2005年12月にトウカイヨシノボリ9)
という学名を伴わない新称が提唱されました。将来的には新称に問題があるので改称されることでしょう。
当サイトでは「Freshwater Goby Museum」と同様に、
ウシヨシノボリ(トウカイヨシノボリ)として扱っています。今後は括弧を省くかもしれません。
これまで記してきたように、本種は私が1990年頃に初めて見つけ、2〜3年後に未報告種と考えました。
この間に名古屋市の溜池などでも採集してウシヨシノボリと呼んでいました。
当サイトでは1999年9月23日に「難解な淡水魚」というページで紹介し、
当ページ「ウシヨシノボリ」は2000年11月11日に公開しました。
過去の一部は「Wayback Machine」で確認できます。
本種の存在に逸早く気付き、和名提唱をしたのは私です。それもあってウシヨシノボリは思い入れの強い魚です。
Web媒体は著作権法によって守られ、和名提唱も特別な事情がない限り先取優先です。
また、遺伝的知見を1998年に高橋さんらが生息地公開せず、ヨシノボリ属の一種として発表されています。
トウカイヨシノボリ論文の筆者は私とこのページの存在を知っています。
それを引用すらせず抹殺し、私も学名を伴えば何も指摘しませんが、それすらなく和名を重複提唱しています。
その和名も略すとトウヨシノボリ(トウヨシ)と間違えやすく、本種は東海地方だけではなく、
近畿地方(当ページでは2004年12月19日に三重県に分布することを載せています)にも分布するため、
トウカイヨシノボリというのは問題ある愚称です。重複和名による混乱も生じ、生息地公開しておきながら保護が必要と訴えています。
トウカイヨシノボリ論文は、私や高橋さんらの発表を差し置き、都合が悪いものは抹殺しています。
私はプライオリティーを無視して、黙って横取りする人のモラルを問います。
このような愚痴は格好悪い事だと思い、これまで記しませんでしたが、
トウカイヨシノボリという和名をご存知なのに、
ウシヨシノボリという和名を使って下さる方がおられ、そのお心遣いには本当に感謝しています。
そうした方々にトウカイヨシノボリ論文の問題点と、
著しくモラルが低い者の存在を示すため、このような文章を追記することにしました。
他にも蟠りは色々ありますが、今後に謝罪がなく、怒りが増した時、再び別件を追記します。
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