フナ類
ゲンゴロウブナとその他とする同定は可能
フナ類は「日本産魚類検索」によると「日本産魚類のなかで分類するのが最も困難なグループ」とあります。 出版物によっても様々な見解があり、フナ類を形態形質のみで同定することは一部を除いてできません。
日本産魚類検索(a) 原色淡水魚類検索図鑑(b) 日本のコイ科魚類(c) 原色日本淡水魚類図鑑(e)
和名 体高比 背鰭分岐軟条数 鰓耙数 ゲンゴロウブナ 2.1〜3.0(a),2.3〜2.6(c),2.1〜2.8(e) 15〜18(a),16〜18(a),16〜18(c),15〜18(e),
15〜18(f),16〜18(g),16〜18(h),15〜18(i)92〜128(a),106〜120(b),106〜120(c),
92〜128(e),92〜128(g),93〜103(i)ギンブナ 2.1〜3.0(a),2.3〜2.9(c),2.3〜3.0(e) 15〜18(a),15〜17(b),15〜18(c),15〜18(e),
15〜18(f),14〜17(g),15〜17(h),13〜21(i)41〜57(a),45〜57(b),39〜58(c),
42〜57(e),41〜57(f),51〜73(g),36〜57(i)ニゴロブナ 2.8〜3.6(a),2.6〜2.8(c),2.6〜3.4(e) 15〜18(a),14〜17(b),14〜17(c),
11〜17(e),15〜18(f),16〜17(h)54〜72(a),53〜72(b),53〜72(c),
51〜73(e),52〜72(f)ナガブナ 2.8〜3.6(a),2.6〜2.9(c), 15〜18(a),14〜17(b),14〜17(c),
14〜17(f),15〜18(g),15〜17(h)48〜57(a),45〜53(b),45〜53(c),
48〜56(f),48〜56(g),48〜56(i)キンブナ 2.8〜3.6(a),2.7〜2.9(c), 11〜14(a),12〜14(b),11〜14(c),
11〜14(f),12〜14(h),11〜14(i)26〜30(a),36〜40(b),32〜42(c),
30〜38(f),30〜38(i)オオキンブナ 2.8〜3.6(a) 14〜16(a),14〜16(f),13〜19(g),13〜19(i) 36〜45(a),36〜45(f),34〜51(g),34〜56(i)
日本の淡水魚(f) 川と湖の魚1(g) 日本産魚類大図鑑(h) 淡水魚8号(i)
学名 和名 分布 体高比 背鰭分岐
軟条数鰓耙数 Carassius cuvieri ゲンゴロウブナ 琵琶湖淀川水系 2.1〜3.0 15〜18 92〜128 Carassius sp. ギンブナ 日本全国 2.1〜3.0 13〜21 36〜73 Carassius buergeri grandoculis ニゴロブナ 琵琶湖 2.6〜3.6 11〜18 51〜73 Carassius buergeri subsp. 1 ナガブナ 山陰・北陸・諏訪湖 2.6〜3.6 14〜18 45〜57 Carassius buergeri subsp. 2 キンブナ 関東から東北 2.7〜3.6 11〜14 26〜42 Carassius buergeri buergeri オオキンブナ 静岡県以西 2.8〜3.6 13〜19 34〜56 Carassius gibelio ギベリオブナ 日本全国(外来魚) - - -
同定によく使われる体高比、背鰭分岐軟条数、鰓耙数についてまとめました。 ギベリオブナ(キンギョを含む)は詳しい情報が得られませんでした。 キンブナとギンブナの中間型とされるものはキンブナ系統からの三倍体雑種と見なしてギンブナに含めました。 キンブナとオオキンブナを区別していないと思われるものは表に加えませんでした。 背鰭分岐軟条数は出版物によって数え方がまちまちのため「日本産魚類検索」に合わせました。 ゲンゴロウブナ(ヘラブナ)は全国各地に放流され、 ナガブナ、キンブナ、オオキンブナの分布は判然としていないため、 分布だけで同定することはできません。
体高比 ![]()
体高比 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 2.6 2.7 2.8 2.9 3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 3.6 ゲンゴロウブナ ギンブナ ニゴロブナ ナガブナ キンブナ オオキンブナ
背鰭基底長比 2.2 2.3 2.4 2.5 2.6 2.7 2.8 2.9 3.0 3.1 3.2 3.3 3.4-4.1 ギンブナ ゲンゴロウブナ オオキンブナ キンブナ 体長÷体高=体高比によって求めます。ノギスで測ります。 体長は上顎前端から下尾骨の後端までの距離です。 下尾骨の後端とは鱗が途切れて尾鰭になる位置ではなく、 その手前の尾鰭を左右に折り曲げたときにできるしわの位置です。 体高は鰭を除く体の最も高いところの垂直距離です。 フナ類の場合はだいたい背鰭の少し手前から腹鰭の少し手前までの距離です。 体高は肉付きの違いによる個体差や卵を持っていたりして変化するため決め手に欠けます。 この体高比だけで同定できる種類はいません。 「淡水魚8号」にはニゴロブナとナガブナの情報はないものの背鰭基底長比が記され、 体長÷背鰭基底長(背鰭の前から後ろまでの距離)によって求めます。 体高比、背鰭分岐軟条数、鰓耙数を調べてもなお判別できない場合に参考にすると良いでしょう。
背鰭分岐軟条数 ![]()
背鰭分岐軟条数 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 キンブナ ニゴロブナ オオキンブナ ギンブナ ナガブナ ゲンゴロウブナ 背鰭分岐軟条数は背鰭の枝分かれした軟条を数えます。 注意すべきは最後の軟条が基底部で分岐して2本に見えることがあります。 この場合は1本として数えます。これを正確に調べるには背鰭を切開しないとわかりません。 ようするに写真や生体を数えて15本だった場合は14本かもしれないということです。 背鰭分岐軟条数だけで同定できる種類は、20〜21本だった場合のギンブナだけです。 ニゴロブナは「原色日本淡水魚類図鑑」だけが11〜17本という極端に少ない数値も載せているため、 それを採用しなければ14〜18となり、11〜12本はキンブナだけということになります。
鰓耙数 ![]()
鰓耙数 26-33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 - 92-128 キンブナ オオキンブナ ギンブナ ナガブナ ニゴロブナ ゲンゴロウブナ 鰓蓋付近をハサミやナイフで開き、最も外側にある弓状の鰓を取り出します。 弓の内側の半透明で櫛状の部分が鰓耙でその数が鰓耙数です。 写真では魚の左側の鰓耙を数えましたが、出版物によっては右側とする場合が多いです。 幼魚以下は鰓耙が成育途上のため少なく出る場合も考えられます。 また小さな個体の鰓耙を肉眼で数えるには大変苦労します。 濡れた鰓耙は2〜3本が繋がって1本に見えることもあるため、 待針や爪楊枝で1本ずつ離しながら数えると間違え難いです。 ゲンゴロウブナは他のフナ類と随分と差があるため鰓耙数だけで同定できます。 また26〜33本であればキンブナとして良いかもしれません。
ゲンゴロウブナ ![]()
最低でもフナ類の同定には鰓耙数を調べる必要がある。(濃尾平野産) 体高比2.8倍は6種類全てに該当します。背鰭分岐軟条数14本(根元で繋がる)はゲンゴロウブナを除く5種類に該当します。 鰓耙数100本はゲンゴロウブナだけに該当します。3つの形態形質からではどれにも該当しないため同定できません。 フナ類の場合にこうしたことは希ではなく、他の形態形質としてニゴロブナは口が大きいなどありますが傾向に過ぎません。 またギンブナは3倍体雑種で学名が保留されていたり、外来魚や交雑個体の存在もあります。 そうした中でゲンゴロウブナの鰓耙数だけは他と比べて明らかに多いため、ゲンゴロウブナなのか違うのかということだけは判ります。 それによって写真の個体は鰓耙数100本のためゲンゴロウブナと同定できます。 日本産フナ属は体高比、背鰭分岐軟条数、鰓耙数が判っても同定可能なのは一部だけなのです。 ましてや解剖もしていない写真や生体ではどうにもなりません。
それでも「これはゲンゴロウブナだ」と思って鰓耙数を確認すると不思議と間違えません。 人は人の顔を識別できる能力が高いですが、どこがどう違うのかを他人に伝えるのは大変難しいです。 この人には目が5つあるというような決定的な違いはありません。 しかし本人を知っている人にとって、髪型が変わって日焼けしても間違うことはまずありません。 これと同じように客観的に伝えることは難しいですが、 経験から些細な多くの特徴や傾向を総合的に判断し、 見た瞬間に「これはゲンゴロウブナだ」と脳が判断できるようになります。 それには鰓耙数を数えるなどの経験と裏付けがないと単なる思い込みになります。
三重県のフナ類は「第42回魚類自然史研究会要旨集」や「水圏資源生物学研究室」の野口智明氏の発表によると、 2倍体のゲンゴロウブナを除いて2種類が存在し、 分子系統樹ではA:2倍体(キンブナ含む)+3倍体、B:2倍体(ナガブナ?)+3倍体、C:2倍体(オオキンブナ?)+3倍体、 ゲンゴロウブナの大きく4つに分かれ、Aにはキンブナとナガブナ、Bにはニゴロブナが入っていたり、私から見れば難解の極みです。 3倍体は複数系統が存在することも示唆され、3倍体だから種類はギンブナだとする解釈も間違いになります。 この発表から考察すると、形態形質からゲンゴロウブナ以外の日本産フナ属はフナ類としか言いようがないと思えます。
参考・引用文献 ※不備がある場合は改めますのでお手数ですがご連絡ください。
□ 日本産魚類検索 全種の同定 第二版 中坊徹次編 東海大学出版会 2000.12.20
□ 日本産魚類検索 全種の同定 第三版 中坊徹次編 東海大学出版会 2013.2.26
□ 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚 改訂版 川那部浩哉・水野信彦・細谷和海編 監修 山と渓谷社 2001.8.25
□ 原色淡水魚類検索図鑑 8版 中村守純 著 北隆館 1993.3.20
□ 日本のコイ科魚類 中村守純 資源科学研究所 1969
□ 日本産魚類大図鑑 2版 益田一ほか 東海大学出版会 1988.11.30
□ 原色日本淡水魚類図鑑 全改訂新版 宮地傳三郎・川那部浩哉・水野信彦 著 保育社 1983.6.1
□ 淡水魚 8号 財団法人淡水魚保護協会 1982.11.8
□ 検索入門 川と湖の魚1 川那部浩哉・水野信彦著 保育社 1989.6.30
□ ブラックバスを退治する −シナイモツゴ郷の会からのメッセージ− 細谷和海・高橋清孝 編 恒星社厚生閣 2006.11.25
□ 第42回魚類自然史研究会要旨集 2006.3.11
□ 三重大学大学院生物資源学研究科水圏資源生物学研究室