スゴモロコ or コウライモロコ





コウライモロコはスゴモロコと同じ種類だと思います

細谷は1983年にスゴモロコ(愛知県〜琵琶湖〜広島県産)とコウライモロコ(韓国産)を形態比較し、 琵琶湖産は脊椎骨数が多くスゴモロコ、他は韓国産に似ているなどの理由からコウライモロコとしました。 1989年には図鑑という形で、スゴモロコとコウライモロコを掲載し、その違いはスゴモロコよりもコウライモロコは、吻が丸く全体が太短いとされました。 それに対して2006年に当ページにおいて、スゴモロコとコウライモロコは形態形質から識別不可能で、亜種関係としての分類は懐疑的という内容を記しました。 2007年には柿岡諒らが「スゴモロコとコウライモロコは、遺伝的にも形態的にも明確に区別をすることができなかった」との発表がありました。

口髭と上顎長
※分布(琵琶湖産)からスゴモロコ
※分布(兵庫県・三重県・愛知県産)からコウライモロコ

体高と体長
※分布(琵琶湖産)からスゴモロコ
※分布(三重県・岐阜県産)からコウライモロコ

細谷は日本産魚類検索3(以下、魚類検索3))でスゴモロコ「口髭は上顎長の2/3程度。体高は体長の19%以下。」、 コウライモロコ「口髭は上顎長とほぼ同じか、それより長い。体高は体長の20%以上。」としています。 実測とは異なり、画像からの判断ですが、両方とも重複して識別できません。 これは琵琶湖にコウライモロコ、それ以外にスゴモロコが移入しているという証明ではなく、識別形質として使えないのだと思われます。 また、口髭は上顎長の2/3程度、体高は体長の20%以上という、両者の特長が混じる個体も希ではありません。 両者は同亜種だと思われます。新種記載の早いスゴモロコを残し、コウライモロコはシノニムとするべきです。




日本産スゴモロコ属

コイ科 Cyprinidae
└ カマツカ亜科 Gobioninae
    スゴモロコ属 Squalidus Dybowski, 1872
        イトモロコ種 Squalidus gracilis (Temminck and Schlegel, 1846)
       │└ イトモロコ亜種 Squalidus gracilis gracilis (Temminck and Schlegel, 1846)
            
            
            
            
            
            
            
            
            
        chankaensis Squalidus chankaensis Dybowski, 1872
       │├ スゴモロコ亜種 Squalidus chankaensis biwae (Jordan and Snyder, 1900)
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       │└ コウライモロコ亜種 Squalidus chankaensis tsuchigae (Jordan & Hubbs, 1925) synonym
        デメモロコ種 Squalidus japonicus (Sauvage, 1883)
       │└ デメモロコ亜種(デメモロコ琵琶湖型) Squalidus japonicus japonicus (Sauvage, 1883)
            
            
            
            
            
            
            
            
            
        標準和名なし種(デメモロコ濃尾型) Squalidus sp.
            
            
            
            
            
            
            
            
            
科名 属名 種小名 亜種小名 命名者名 命名年

従来現在自然分布移入
イトモロコイトモロコ愛知県〜五島列島福江島。静岡県や関東地方など。
スゴモロコスゴモロコ愛知県〜琵琶湖〜広島県産。
国外では朝鮮半島。
全国的。
コウライモロコ
デメモロコ
デメモロコ琵琶湖型琵琶湖水系(滋賀県のみ)。神奈川県(最下方KPM-NR 59380)。
デメモロコ濃尾型濃尾平野と伊勢平野北部(絶滅?)。矢作川水系と長良川水系の一部は疑い。

2003年に「デメモロコ濃尾型」を作成し、 デメモロコの琵琶湖産と濃尾平野産は、形態形質から識別可能と証明し、 2007年に柿岡諒らが「伊勢湾周辺産デメモロコはミトコンドリアDNAにおいて多系統的であり,琵琶湖産デメモロコと特に近縁ではなかった」との発表がありました。 デメモロコは琵琶湖型と濃尾型の2型(別種もしくは別亜種の可能性が高い)とし、 先述したようにコウライモロコはスゴモロコのシノニムと見なしました。 ここでは日本産スゴモロコ属を、イトモロコ、スゴモロコ、デメモロコ琵琶湖型、デメモロコ濃尾型の4種3亜種(4種類)とします。

側線上方横列鱗数
イトモロコの側線鱗は、その上下の鱗よりも、やや大きい特徴もありますが、生体では見辛いことも多いです。

側線上方横列鱗数とは、背鰭起部(背鰭の前)から後下方へ、側線鱗(側線のある鱗)の手前までの鱗数です。 それが4枚ならばイトモロコ。5〜6枚であればスゴモロコ、デメモロコ琵琶湖型、デメモロコ濃尾型の何れかです。 背鰭起部の前方にある鱗は、反対側にもまたがってあるため、0.5枚という数え方もありますが、ここでは1枚としています。 牧(1996)はスゴモロコ5〜6(最頻値5)枚、コウライモロコ4〜6(最頻値5)枚、デメモロコ5〜7(最頻値6)枚としていますが、 コウライモロコの4枚は希だと思います。

眼と鰓蓋
眼は暗色の縁取りで、実際よりも小さく見えるため、眼窩(眼球の入る穴)を確認して下さい。眼と眼窩はほぼ同じです。

魚を真横から見て、眼と鰓蓋を比較します。 鰓蓋は厳密な定義とは異なりますが、瞳の中心よりも後ろの、青線で囲った場所とします。 眼と比べて鰓蓋は、スゴモロコ、イトモロコ、デメモロコ濃尾型、デメモロコ琵琶湖型の順に広いです。 スゴモロコとデメモロコ琵琶湖型は顕著に異なるため、この特徴だけで識別は容易だと思います。 デメモロコは眼が出ている(=眼が大きい)と、勘違いされやすい和名ですが、 実際はスゴモロコの方が眼は大きいです。

傾向的な特徴からの簡易比較
これらだけを拠り所にすると例外を誤同定します。詳細は「デメモロコ濃尾型」

4種類のうち側線上方横列鱗数、眼と鰓蓋という2つの特長で分けられないのは、デメモロコ琵琶湖型とデメモロコ濃尾型です。 画像にある複数の傾向的な特徴から、ある程度は同定できますが、 下顎の形状と「肛門臀鰭間÷口髭間=%」デメモロコ濃尾型51〜76%、デメモロコ琵琶湖型81〜114%は決定的な特徴です。 スゴモロコ×デメモロコ琵琶湖型スゴモロコ×デメモロコ濃尾型など交雑個体も存在します。 デメモロコ濃尾型とコウライデメモロコ S. j. coreanus (Berg, 1906) は酷似しますが、 後者は側線が直線的で、やや眼が大きく、眼下の幅が狭い傾向があります。
側線上方横列鱗数4567
イトモロコ
スゴモロコ
デメモロコ琵琶湖型
デメモロコ濃尾型
眼と鰓蓋23
イトモロコ
スゴモロコ
デメモロコ琵琶湖型
デメモロコ濃尾型
全長(cm)0-7891011121314
イトモロコ
スゴモロコ
デメモロコ琵琶湖型
デメモロコ濃尾型
生息水域上流中流下流河口琵琶湖
イトモロコ
スゴモロコ
デメモロコ琵琶湖型
デメモロコ濃尾型
スゴモロコ属は1883年から現在まで、誤同定が散見され、分けるべき物を分けず、分けなくて良い物を分け、 それを基に記された情報は、使い難いものと成っています。 また、イトモロコと亜種関係にあるホソモロコ S. g. majimae や デメモロコ琵琶湖型と亜種関係にあるコウライデメモロコ S. j. coreanus は、 遺伝的系統が近縁ではないようです。 スゴモロコ属は大規模な分類学的整理が必要だと思います。


参考・引用文献 ※不備がある場合は改めますのでお手数ですがご連絡ください。
□ 日本産魚類検索 全種の同定 第三版 中坊徹次編 東海大学出版会 2013
□ 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚 川那部浩哉・水野信彦編 監修 山と渓谷社 1989
□ 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚 2版 川那部浩哉・水野信彦編 監修 山と渓谷社 1995
デメモロコ濃尾型
日韓ちゃんぽん
Muséum national d'Histoire naturelle
Field Museum
GBIF
天ヶ瀬ダム魚類等遡上・降下影響評価に関する報告書
□ 第44回魚類自然史研究会要旨集 2007
□ 第61回魚類自然史研究会要旨集(ボテジャコ20号) 2015
□ 魚類学雑誌 45巻2号:115-119 日本魚類学会 1998
□ 淡水魚 9号 財団法人淡水魚保護協会 1983
□ 山溪ハンディ図鑑15 日本の淡水魚 細谷和海/監・編 内山りゅう/写真 山と渓谷社 2015
□ 日本のコイ科魚類 中村守純 資源科学研究所 1969
□ 小学館の図鑑Z 日本魚類館 中坊徹次/編・監修 小学館 2018
□ 原色淡水魚類検索図鑑 8版 中村守純 著 北隆館 1993
□ 日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料 V 社団法人日本水産資源保護協会 1996
□ Tang et al. (2011) Phylogeny of the gudgeons (Teleostei: Cyprinidae: Gobioninae). Molecular Phylogenetics and Evolution, 61: 103-124.
□ Tabata et al. (2016) Phylogeny and historical demography of endemic fishes in Lake Biwa: the ancient lake as a promoter of evolution and diversification of freshwater fishes in western Japan. Ecology and Evolution, 6, 2601-2623.
□ Jeon et al. (2018) The genetic structure of Squalidus multimaculatus revealing the historical pattern of serial colonization on the tip of East Asian continent. Scientific reports 8:10629
□ Bănărescu and Nalbant (1973) Pisces, Teleostei. Cyprinidae (Gobioninae). Das Tierreich v. 93. i-vii + 1-304.
□ Bănărescu and Nalbant (1965) Studies on the Systematics of Gobioinae (Pisces, Cyprinidae). Revue Roumaine Biol., Ser. Zool., 10(4): 219-229, figs. 1-9.
□ Jordan and Snyder (1900) Proc. U.S. nation. Mus., Washington, 23:340; pl.
□ Jordan and Hubbs (1925) Mem. Carnegie Mus., Pittsburgh, 10(2): 170.
□ Sauvage (1883) SAUVAGE, Bull. Soc. philom., Paris (7) 7:4.