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日本産アカザ属はアカザLiobagrus reinii だけとされてきましたが、
2015年の論文で遺伝的に大別すると、アカザ(クレード1)とアカザ(クレード2)の存在が報告されました。
クレード1とクレード2は同所的に見つかっており、両者は別種と考えられます。
形態的な差異の報告はありません。識別できそうな簡単なポイントを、私見としてまとめました。
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日本産アカザ属2種
アカザ科 Amblycipitidae
└ アカザ属 Liobagrus
├ アカザ(クレード1) Liobagrus reinii species complex Clade 1 Hilgendorf, 1878
└ アカザ(クレード2) Liobagrus reinii species complex Clade 2 Hilgendorf, 1878
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科名 属名 種小名 命名者名 命名年
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分布図を見ると、クレード1は本州・四国に広く分布します。
岩手県から静岡県の太平洋側は、移入の疑いが高いようです。但し、1892年に神奈川県からアカザ種群と思われるNeobagrus fuscus が記録されています。
クレード2は福井県嶺南地方以西の本州・四国・九州に分布します。
L. reinii の模式産地は南日本としか記されておらず、クレード1とクレード2のどちらが真のアカザかは不明です。
分布図である程度は同定が可能なように見て取れますが、同所的に分布する地域があるのと、放流による移入も考えられます。
我々は福井県丹南地方でもアカザ種群を採集しましたが、
分布図に含まれていない地域でした。この個体は形態からクレード2(分布の東限)と同定しました。
クレード1は4つ、クレード2は3つに細分化(サブクレード)され、これらの系統的距離の程度も無視できず、
アカザ種群は最低でも2種、それ以上の種・亜種に、分けることも可能かもしれません。
それらを地域ごとに守るためにも、放流は慎まなければなりません。
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体側に脱色斑があるC1とないC2 |
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この特徴でほぼ同定できると思います。クレード1の脱色斑の大きさや数はまちまちです。
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クレード1は通常体色時の体側に、脱色した円形に近い斑が散在します。この脱色斑はクレード2にはありません。
希に脱色斑のようなものがある場合でも、クレード1よりも小さくて少なく、明暗がはっきりせず曖昧で目立ちません。
クレード1は強力なライトを当てたり、標本にすると体側全体が明色となり、
脱色斑がはっきりしない場合があります。
そのような場合は下記も参考にして同定します。
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クレード1と比べてクレード2は、胸鰭・腹鰭・臀鰭が大きく、
尾鰭の外縁(黄褐色や透明)のすぐ前方にある暗色弧状帯の色が濃い。
口髭の先端付近の太さは、例外も少なくないと思われ、参考程度に留めて下さい。
その他にクレード2は胸鰭棘の曲がりがやや強く、腹鰭の鰭膜がやや広いです。
背鰭にも違いは認められますが、雌雄差(雄の方が大きい)が著しく、混乱を避けるため、ここでは触れませんでした。
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参考・引用文献 ※不備がある場合は改めますのでお手数ですがご連絡ください。
□ 日本産魚類検索 全種の同定 第三版 中坊徹次編 東海大学出版会 2013.2.26
□ 山溪ハンディ図鑑15 日本の淡水魚 細谷和海/監・編 内山りゅう/写真 山と渓谷社 2015.12.30
□ 神奈川県レッドデータ 2006 WEB版
□ Nakagawa, H., S. Seki, T. Ishikawa and K. Watanabe. In press. Genetic population structure of the Japanese torrent catfish Liobagrus reinii (Amblycipitidae) inferred from mitochondrial cytochrome b variations. Ichthyol. Res. Doi: 10.1007/s10228-015-0503-6 (2015)
□ Hilgendorf F. M., 1878. Über einige neue japanische Fischgattungen. Sitzungsber. Ges. Naturf. Freunde Berlin, 1878: 155.
□ Kim S-H, Kim H-S & Park J-Y. A new species of torrent catfish, Liobagrus hyeongsanensis (Teleostei: Siluriformes: Amblycipitidae), from Korea. Zootaxa. 4007(1): 267-275.
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