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従来の「メダカ」には4種が存在し、日本にはキタノメダカとミナミメダカの2種が分布します。
その分布は一部で重なります。また、安易な放流によって、2種および地方集団間で、攪乱が起こって問題になっています。
そのため「この場所のメダカはミナミメダカだ」という分布同定が使えません。
両種は形態的に酷似しますが、ここでは尾鰭基底の黒色斑紋で簡易同定を試みます。
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日本産メダカ属2種
分類
メダカ科 Adrianichthyidae
└ メダカ属 Oryzias
├ キタノメダカ Oryzias sakaizumii Asai, Senou and Hosoya, 2012 ["2011"]
├ ミナミメダカ Oryzias latipes (Temminck and Schlegel, 1846)
| ※以下は日本国外
├ チュウゴクメダカ Oryzias sinensis Chen, Uwa and Chu, 1989
└ カンコクメダカ Oryzias sp.
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科名 属名 種小名 命名者名 命名年
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分布
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キタノメダカ ■自然 ミナミメダカ ■自然 ■移入
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遺伝
4種の総称 | 標準和名 | 核DNA | ミトコンドリアDNA |
メダカ種群 |
キタノメダカ
| 北日本集団 | A1〜2 | A群 |
ハイブリッド集団 | A3,B10 | A×B群 |
ミナミメダカ
| 南日本集団 | 東日本型 | C | C群 |
B1〜6 | B群 |
山陰型 | B9,B10 |
東瀬戸内型 | B7 |
西瀬戸内型 | B7,B9 |
大隅型 | B8 |
北部九州型 | B9 |
有明型 | B11 |
薩摩型 |
琉球型 |
チュウゴクメダカ | 中国-西韓集団 | 他とは異群 |
カンコクメダカ | 東韓集団 | 他とは異群 |
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形態
違い | 体側後半 | 雄背鰭の欠刻 (軟条5〜6本間の鰭膜) |
黒色網目模様 | 黒色染み状斑紋 | 銀色鱗数 |
キタノメダカ | ある | ある | 0〜9枚 | 浅い(軟条の半分以下) |
ミナミメダカ | ない | ない | 10〜23枚 | 深い(軟条の半分以上) |
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キタノメダカは2012年(論文には2011年とありますが出版は2012年)に記載されました。
そして2013年にメダカという和名が破棄され、ミナミメダカとキタノメダカの標準和名が提唱されました。
両種は日本固有種と考えられます。なお、ハイブリッド集団は形態的な特徴からキタノメダカ、関東地方の一部に残存するC群はミナミメダカとされました。
分布は一見単純な様で複雑です。信濃川水系は上流域(千曲川水系)にミナミメダカ、下流域にキタノメダカ、。阿武隈川水系は上流域にキタノメダカ、下流域にミナミメダカ。由良川水系は中流域で両種が同所的に分布します。
形態的には上表の違いが、キタノメダカの記載論文にありますが、
例外が非常に多く、黒色網目模様や黒色染み状斑紋のないキタノメダカ、
雄背鰭の欠刻が浅いミナミメダカは、希ではない頻度で出現します。
記載論文に銀色鱗数はキタノメダカ(10〜23枚)、ミナミメダカ(0〜9枚)とありますが、
これは誤記で数値は逆だと思われるため、上表は正しく記しました。
どちらにしても両種で0枚が出現するため、計数形質として使い難いです。
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尾鰭基底の黒色斑紋 |
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尾鰭基底の黒色斑紋に注目して見比べて下さい。ハイブリッド集団とC群も、写真を確認したところ、使えると思います。
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先に記したように、既知の形態的な違いは、非常に曖昧で使い難い状態にあります。
それ以外の特徴として、尾鰭基底の黒色斑紋の違いを、簡易同定として提唱します。
ミナミメダカは尾鰭基底にゼリービーンズ状の黒色斑紋が2つあり、
キタノメダカは前方の曲線がなくて弓状に見えます。
この特徴は雌雄で共通です。但し、傾向的な特徴なため、希に例外は出現しますが、
体側後半の模様や雄背鰭の欠刻よりは、頻度が低いのではないかと思われます。
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参考・引用文献 ※不備がある場合は改めますのでお手数ですがご連絡ください。
□ 日本産魚類検索 全種の同定 第三版 中坊徹次編 東海大学出版会 2013.2.26
□ ヤマケイ情報箱 今、絶滅の恐れがある水辺の生き物たち 内山りゅう/編・写真 山と溪谷社 2007.6.5
□ 日本の淡水魚類 その分布、変異、種分化をめぐって 水野信彦・後藤晃編 東海大学出版会 1987.10.10
□ 遺伝 56(6) 裳華房 2002.11
□ しぜんのひみつ写真館 3 ぜんぶわかる! メダカ 内山りゅう ポプラ社 2015.3
□ Toshinobu Asai, Hiroshi Senou and Kazumi Hosoya 2012 ["2011"] Oryzias sakaizumii, a new ricefish from northern Japan (Teleostei: Adrianichthyidae). Ichthyol. Explor. Freshwaters, Vol. 22, No. 4, pp. 289-299.
□ Taijun Myosho, Yusuke Takehana, Tadashi Sato, Satoshi Hamaguchi, Mitsuru Sakaizumi. (2012) The origin of the large metacentric chromosome pair in Chinese medaka (Oryzias sinensis). Ichthyol. Res. 59: 384-388.
□ Takehana, Y., N. Nagai, M. Matsuda, K. Tsuchiya & M. Sakaizumi (2003) Geographic variation and diversity of the cytochrome b gene in Japanese wild populations of medaka, Oryzias latipes. Zoological Science, 20: 1279-1291.
□ Takafumi Katsumura, Shoji Oda, Hiroshi Mitani and Hiroki Oota G3: GENES, GENOMES, GENETICS Early online November 27, 2018; https://doi.org/10.1534/g3.118.200779
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