ニシシマドジョウ or
トウカイコガタスジシマドジョウ





雄は骨質盤の形状、雌は髭の長さ

トウカイコガタスジシマドジョウの体側斑紋は雌雄二型あり、図鑑には筋の確りある雄の写真がほとんどで、雌が載っていることは希です。 そのためか、ニシシマドジョウと分布が重複する地域では、 トウカイコガタスジシマドジョウの雌が、ニシシマドジョウと誤同定されているものを散見します。 某自治体のレッドデータブックは、2004年と2010年の両方とも、 シマドジョウとしてトウカイコガタスジシマドジョウの写真が使われているほどです。

両者は胸鰭基部から腹鰭基部の筋節数が、トウカイコガタスジシマドジョウは13以下、ニシシマドジョウは14以上を確認することで区別可能です。 また、Sさんによると、同間の肋骨数から2を引くことで、ほぼ筋節数と同じになるそうです。 しかし、生体や写真からそれを判断することは難しく、両方とも確認できないことも多いです。 そこで他の特徴から、雄と雌に分けて、識別方法を記します。 当ページはおいかわ丸さんに貴重なご意見を頂きました(感謝)。

胸鰭の第二軟条と骨質盤(雄)
骨質盤がない場合は雌です。下記を参考にして下さい。ニシシマドジョウの方が髭も長くて目立ちます。

雄の胸鰭には骨質盤という板状の骨があり、写真のような形状の違いがあります。これだけで識別可能です。 また、ニシシマドジョウの方が、第二軟条が太くて確りしています。 シマドジョウ属は写真を撮る場合に、横だけではなく上からも撮影すると、後に同定が容易になります。

3つの傾向的な特徴(雌)
ニシシマドジョウの尾鰭基部にある下の斑は、希に大きくぼんやりが出現します。

画像の髭は第1髭(上唇最上部にある対の口髭)のことで、ニシシマドジョウの方が長い傾向にあります。この髭は希に欠損することがあるため注意が必要です。 背鰭はトウカイコガタスジシマドジョウの方が僅かに前方にあります。 また、背鰭と尾鰭を比較すると、ニシシマドジョウよりも、全体的に大きいです。 目立つ体側の斑紋は、変異の幅が大きくて混乱するため、当てにならないと思って差障りありません。 点列のトウカイコガタスジシマドジョウや、筋状のニシシマドジョウが存在します。

その他の特徴として、私が採集したトウカイコガタスジシマドジョウの最大全長は雄6.9cmと雌8.8cmで、ニシシマドジョウはそれ以上になる個体が多く見られます。 ニシシマドジョウは流れのある砂礫底に多く、逃げるときは瞬発的で素早く、捕まえて触ると力強くて硬いです。 トウカイコガタスジシマドジョウは流れの緩んだ泥底に多く、逃げるときは目で追える程度で、捕まえて触ると力弱くて軟らかいです。



日本産シマドジョウ属

ドジョウ科 Cobitidae
└シマドジョウ亜科 Cobitinae
   シマドジョウ属 Cobitis
       オオシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type A
       ニシシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type B
       シマドジョウ中部集団 Cobitis sp. BIWAE type ?
       ヒガシシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type C
       トサシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type D
       コガタスジシマドジョウ(種) Cobitis minamorii Nakajima, 2012
      │├ サンヨウコガタスジシマドジョウ Cobitis minamorii minamorii Nakajima, 2012
      │├ トウカイコガタスジシマドジョウ Cobitis minamorii tokaiensis Nakajima, 2012
      │├ ビワコガタスジシマドジョウ Cobitis minamorii oumiensis Nakajima, 2012
      │├ ヨドコガタスジシマドジョウ Cobitis minamorii yodoensis Nakajima, 2012
      │└ サンインコガタスジシマドジョウ Cobitis minamorii saninensis Nakajima, 2012
       ナミスジシマドジョウ(種) Cobitis striata Ikeda, 1936
      │├ チュウガタスジシマドジョウ Cobitis striata striata Ikeda, 1936
      │├ オンガスジシマドジョウ Cobitis striata fuchigamii Nakajima, 2012
      │└ ハカタスジシマドジョウ Cobitis striata hakataensis Nakajima, 2012
       アリアケスジシマドジョウ Cobitis kaibarai Nakajima, 2012
       オオガタスジシマドジョウ Cobitis magnostriata Nakajima, 2012
       タンゴスジシマドジョウ Cobitis takenoi Nakajima, 2016
       ヤマトシマドジョウ Cobitis matsubarae Okada and lkeda, 1939
       ヤマトシマドジョウA型 Cobitis sp. ‘yamato’ complex Type A
       オオヨドシマドジョウ Cobitis sakahoko Nakajima and Suzawa, 2015
       イシドジョウ Cobitis takatsuensis Mizuno, 1970
       ヒナイシドジョウ Cobitis shikokuensis Suzawa, 2006
科名 亜科名 属名 種小名 亜種小名 命名者名 命名年
暫定和名標準和名種群
シマドジョウ西日本集団4倍体型1オオシマドジョウ「シマドジョウ種群」 5種
Cobitis biwae species complex
シマドジョウ西日本集団2倍体型2ニシシマドジョウ
3シマドジョウ中部集団
シマドジョウ東日本集団4ヒガシシマドジョウ
シマドジョウ高知集団5トサシマドジョウ
スジシマドジョウ小型種コガタスジシマドジョウ「スジシマドジョウ種群」
5種8亜種 (11種類)
Cobitis striata species complex
スジシマドジョウ小型種山陽型6サンヨウコガタスジシマドジョウ
スジシマドジョウ小型種東海型7トウカイコガタスジシマドジョウ
スジシマドジョウ小型種琵琶湖型8ビワコガタスジシマドジョウ
スジシマドジョウ小型種淀川型9ヨドコガタスジシマドジョウ
スジシマドジョウ小型種山陰型10サンインコガタスジシマドジョウ
スジシマドジョウ中型種ナミスジシマドジョウ
スジシマドジョウ中型種瀬戸内型11チュウガタスジシマドジョウ
スジシマドジョウ中型種遠賀型12オンガスジシマドジョウ
スジシマドジョウ中型種博多型13ハカタスジシマドジョウ
スジシマドジョウ九州型14アリアケスジシマドジョウ
スジシマドジョウ大型種15オオガタスジシマドジョウ
スジシマドジョウ種群4倍体性集団丹後型16タンゴスジシマドジョウ
17ヤマトシマドジョウ「ヤマトシマドジョウ種群」 3種
Cobitis sp. ‘yamato’ species complex
18ヤマトシマドジョウA型 ※暫定
19オオヨドシマドジョウ
20イシドジョウ「イシドジョウ種群」 2種
Cobitis takatsuensis species complex
21ヒナイシドジョウ
日本産シマドジョウ属は、14種8亜種(20種類)が知られていましたが、 オオヨドシマドジョウ、イシドジョウ、ヒナイシドジョウの3種を除いて、 固有の標準和名はありませんでした(暫定和名は当サイトで2012年4月29日まで使用)。 2012年4月25日に9種8亜種(15種類)の標準和名が提唱され、 同年12月14日にはCobitis striata Ikeda, 1936 の再記載と、3新種6新亜種が記載されました。

ヤマトシマドジョウ種群は、シマドジョウ種群とスジシマドジョウ種群の何れかの種類との、交雑に由来する異質4倍体種で、 それと同じ起源のオオガタスジシマドジョウとタンゴスジシマドジョウは、染色体からはヤマトシマドジョウ種群と捉えることも出来ます。 ここでは染色体よりも、雄の体側斑紋が縦条(筋)になる形質から、スジシマドジョウ種群としました。 また、ヤマトシマドジョウは、染色体数から5集団(Y82、Y86、Y90、Y94、Y98)が知られており、更に種や亜種に分類される可能性があります。

消滅した2つの標準和名
「シマドジョウ種群」や「スジシマドジョウ種群」という魚はいます。種群を省略すると意味が違ってきます。

標準和名の提唱と同時に「シマドジョウ」と「スジシマドジョウ」という標準和名を破棄しました。 これはタイ、アジ、ハゼ、コチ、フグ、カレイという標準和名の魚がいないのと同じで、 シマドジョウとスジシマドジョウという魚は、2012年4月25日に消滅しました。 これにより、従来のシマドジョウのようだが、 オオシマドジョウ、ニシシマドジョウ、ヒガシシマドジョウ、トサシマドジョウのどれか分からない場合は、 「シマドジョウ」ではなく「シマドジョウ種群」とすることが適切です。

全21種類の地理的分布
■ ヒガシシマドジョウ
■ ニシシマドジョウ
■ シマドジョウ中部集団
■ オオシマドジョウ
■ トサシマドジョウ
■ ヤマトシマドジョウ
■ ヤマトシマドジョウA型
■ オオヨドシマドジョウ
■ トウカイコガタスジシマドジョウ
■ ビワコガタスジシマドジョウ
■ ヨドコガタスジシマドジョウ
■ サンインコガタスジシマドジョウ
■ サンヨウコガタスジシマドジョウ
■ イシドジョウ
■ ヒナイシドジョウ
■ チュウガタスジシマドジョウ
■ オンガスジシマドジョウ
■ ハカタスジシマドジョウ
■ オオガタスジシマドジョウ
■ タンゴスジシマドジョウ
■ アリアケスジシマドジョウ
本州・四国・九州を約30×30kmの四角に単純化し、大まかな分布を色分けして示しました。 オオガタスジシマドジョウは、琵琶湖産アユの放流に混入し、全国的に確認されているようです。 また、チュウガタスジシマドジョウは「写真掲示板」によると、 シマドジョウ属の分布しない北海道で採集されています。 鑑賞魚用でチュウガタスジシマドジョウ(スジシマドジョウという名称が多い)は比較的よく出回っています。 そこから考えると、無責任な飼育者が購入個体を、自然へ放流したものだろうと想像します。 新たな外来魚問題に成らないことを願うばかりです。

分布の境界付近
ニシシマドジョウは2倍体で、オオシマドジョウは4倍体のため、理論上は雑種化しません。

分布が隣接する地域では、同所的に複数種が見られることもあります。 同種内の亜種間では、基本的に交雑で亜種を保てないため、分布を隔てる明瞭な境界が存在します。 コガタスジシマドジョウ種内で亜種関係にあるとされる、ビワコガタスジシマドジョウとヨドコガタスジシマドジョウは、 琵琶湖淀川水系という一連の移動可能な水域で、形態的と遺伝的ともに近く、亜種を分かつものか疑問が残ります。 なお、ヨドコガタスジシマドジョウは1996年に宇治川で確認されて以後の報告はありません。


参考・引用文献 ※不備がある場合は改めますのでお手数ですがご連絡ください。
□ 日本産魚類検索 全種の同定 第二版 中坊徹次編 東海大学出版会 2000.12.20
□ 日本産魚類検索 全種の同定 第三版 中坊徹次編 東海大学出版会 2013.2.26
□ 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚 改訂版 川那部浩哉・水野信彦・細谷和海編 監修 山と渓谷社 2001.8.25
□ 希少淡水魚の現在と未来 積極的保全のシナリオ 片野修・森誠一監修 編者 信山社 2005.7.30
□ 宍道湖自然館第11回特別展 展示解説 日本のどじょうたち 山口勝秀ほか編者 島根県立宍道湖自然館ゴビウス 2006.7.15
□ Ichthyological Research (2003) 50:318-325
□ Ichthyological Research (2005) 52:111-122
□ Ichthyological Research (2006) 53:315-322
□ 魚類学雑誌 (2004) 51(2):117-122
□ 魚類学雑誌 (2006) 53(2):117-131
□ 魚類学雑誌 (2010) 57(2):105-112
□ 魚類学雑誌 (2011) 58(2):153-160
□ 魚類学雑誌 (2012) 59(1):86-95
□ 2007年度日本魚類学会講演要旨 日本魚類学会 2007.10.5
□ 2009年度日本魚類学会講演要旨 日本魚類学会 2009.10.10
□ 2011年度日本魚類学会講演要旨 日本魚類学会 2011.9.29
□ 魚類自然史研究会会報 ボテジャコ 第12号 魚類自然史研究会発行 2007.10.20
□ Nakajima, J. (2012) Taxonomic study of the Cobitis striata complex (Cypriniformes, Cobitidae) in Japan. Zootaxa, 3586:103-130.
□ Nakajima and Suzawa (2015) Ichthyol Res DOI 10.1007/s10228-015-0476-5
□ Nakajima, J. (2016) Cobitis takenoi sp. n. (Cypriniformes, Cobitidae): a new spined loach from Honshu Island, Japan. ZooKeys 568: 119-128 doi: 10.3897/zookeys.568.7733
□ 中島淳・内山りゅう. 2017. 日本のドジョウ, 山と渓谷社.
□ 柳生将之(2019)長野県に生息するシマドジョウの形態・遺伝的特徴.長野県科学振興会 研究成果発表パネル.