濃尾平野の淡水魚(1)






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濃尾平野では12月頃によく見られるゼゼラ河川集団です。

濃尾平野 濃尾平野の位置付け
当サイト内で濃尾平野(愛知県・岐阜県・三重県)とは、左の地図上に引いた黒線の範囲(揖斐川〜天白川水系)です。 厳密には地理学的な濃尾平野という位置付けとは異なり、一部の低い丘陵および台地や干拓地などを含みます。 それらは魚類相がほとんど変わらず、淡水魚にとっては同じ水域と見なすことができるためです。 なお近隣に広がる岡崎平野(愛知県)や伊勢平野(三重県)は含みません。

木曽三川
木曽三川(木曽川・長良川・揖斐川)の河口域は広大です。 揖斐・長良川(河口付近で合流)は、文献によると国道23号線付近の塩分が、 同じ調査日において表層が6.8psu(‰とほぼ同じ)で底層が30.6psuと大きな違いがあるようです。 ようするに、表層は汽水で底層は海水です。潮汐により同じ地点でも塩分は大きく変化します。 塩分区分による情報を載せようとすると、採集の度に塩分を測り、水深や僅かな場所の違いによって、 測り直すという作業が必要になりますが、現実的ではありません。 木曽三川には魚類調査した多くの資料が存在しますが、塩分を記載していないものが多く、 それらを全て淡水魚類として良いのか判断に迷います。これらの理由により扱う範囲を木曽三川に限って、 国道23号線(揖斐長良大橋と木曽川大橋)より上流と定めました。

備考
淡水魚類の画像および動画は全て濃尾平野産で、西村もしくは同行者が採集や撮影した魚を載せています。 名称が属名や地方名で記されているものは、同類の存在が既に確認されている場合は、同じ種類として扱っています。 僅かな放流に伴って極希に確認されている国外移入種(熱帯魚など)は省きました。 長良川河口堰の魚道にて撮影した画像や動画は掲載許可を得ています。



濃尾平野の淡水魚相
169(+その他7)種類が確認されています。 20(国外移入種)+16(国内移入種)/169=21.30...%が別の地域から来た種類です。 周縁魚や汽水魚を含めているため、淡水域で移入の割合は更に高くなると考えられます。 国内移入種の疑いがある種類や、移入集団も少なからず存在すると思われます。

国外移入種
20種類の他にタイリクスズキの可能性のある個体も確認しています。 ピラニアなど小規模な放流によると思われる種類も見つかっていますが、 定着することなく、冬季にの水温低下で、死滅している場合が多いと考えられます。

国内移入種
16種類の他にアカヒレタビラを放流したという話を聞いたことがあり、 他にも安易な放流によって見つかることがあると思われます。 それに加えてナマズやニッポンバラタナゴなどは、移入の判断に迷う種類がいます。

移入集団
濃尾平野の在来魚と同じ種類で、他所から持ち込まれたおよびその起源の種類を、移入集団と定義付けています。 遊漁や漁業目的魚種としてニホンウナギ、アユ、アマゴ・サツキマス、ニゴイ類、フナ類、ナマズなどの放流記録があります。 メダカ類に代表される善意の放流に由来する個体も、少なからず生息しているものと考えられます。 他にオイカワ、ゼゼラ、ナマズ、ハリヨなども疑いが強いです。

品種改良魚
川を綺麗にという発想からヤマトゴイやニシキゴイなど、品種改良されたコイ導入型が非常に多く放流されています。 その後の川は水草もほじられて、コイ導入型しかいない川になる場合もあります。また、ミナミメダカの群れの中にヒメダカも確認しています。

愛知用水
濃尾平野には愛知用水など大規模な水路が流れ、 伊勢平野、岡崎平野、知多半島まで水系として繋がっています。それによる移動で魚類相が類似傾向にあります。 濃尾平野にしか元来は生息していなかった魚が、水路よって分布を拡大しています。 ただ、大昔の伊勢・三河湾地域には、東海湖という琵琶湖よりも大きな淡水湖があり、繋がっていたと考えられています。

濃尾平野固有の魚を守るには
生物に無配慮な護岸工事や水質汚染などを改善することが、濃尾平野の水域も例外ではなく重要です。 それと同等に深刻な問題は淡水魚の放流です。環境を改善する努力をしても、 そこが移入魚の棲家を提供するだけになっては意味がありません。放流が行われる限りは問題は山積して行くばかりです。 そうしたことを防ぐためにも、まずは放流問題を最優先に考えて、保全の一歩が始まると思います。




※画像関係などでご協力して下さった ふなむしさんAkiraさん川口さんalsoさんどんすけさんたくみさん貞蔵さんタロべエさんハリーさんささきさん。 同定して下さった井関智明さんなおきさんひらっちさん。 誤同定をご教示して下さったすずきさん。 イチモンジタナゴの遺伝的な面でご教示して下さった河村功一さん。 ハゼ類などの同定をはじめ様々な面でご教示して下さった向井貴彦さんに心から感謝いたします。

※上の地図は白い地図工房の素材の使用許可に基づいて加工したものです。(著作権:白い地図工房)


参考・引用文献 ※不備がある場合は改めますのでお手数ですがご連絡ください。
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□ 岐阜の淡水魚 岐阜県博物館 1995.4.25
□ 日本産魚類検索 全種の同定 第二版 中坊徹次編 東海大学出版会 2000.12.20
□ 岐阜県の動物 岐阜県高等学校生物教育研究会編 1974.7.10
□ 中日新聞(夕刊)1993.2.13
□ 関市の水生生物 関市淡水生物調査会編著 関市教育委員会発行 1994.3.31
□ 長良川の魚 駒田格知 大衆書房 1987.2.2
□ 南濃町史 通史編 岐阜県海津郡南濃町編集 発行 1982.8.1
□ 木曽川の魚 河川魚相生態学 中下流篇 丹羽彌 社団法人木曽教育会 1967
□ 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚 2版 川那部浩哉・水野信彦編 監修 1995.9.1
□ 長良川下流域生物相調査報告書 長良川下流域生物相調査団 発行 1994.7.9
□ 日本自然保護協会報告書85号 長良川河口堰が自然環境に与えた影響 財団法人 日本自然保護協会 発行 1999.7
□ (平成2・3年度) 河川水辺の国勢調査年鑑 魚介類調査編 建設省河川局治水課監修 財団法人 リバーフロント整備センター編集 山海堂 1993.5.25
□ (平成4年度) 河川水辺の国勢調査年鑑 魚介類調査編 建設省河川局治水課監修 財団法人 リバーフロント整備センター編集 山海堂 1995.1.30
□ 平成6年度 (BOOK&CD-ROM) 河川水辺の国勢調査年鑑(河川版) 魚介類調査,底性動物調査編 建設省河川環境課 監修 財団法人 リバーフロント整備センター 編集 山海堂 1997.2.10
□ 平成7年度 (BOOK&CD-ROM) 河川水辺の国勢調査年鑑(河川版) 魚介類調査,底性動物調査編 建設省河川環境課 監修 財団法人 リバーフロント整備センター 編集 山海堂 1997.11.30
河川環境データベース(河川水辺の国勢調査)国土交通省
□ 長良川河口堰 魚道 魚たちの通る道 水資源開発公団・長良川河口堰管理局
□ 平成11年度 長良川河口堰モニタリング年報 建設省中部地方建設局 水資源開発公団中部支社
□ 庄内川、新川及び日光川河口に広がる干潟−その機能と地形特性− 名古屋市環境事業局施設部施設課 編集・発行 1999.11.6
□ 続・私のまわりの魚たち 金古弘之 1990.3.10
□ 第43回魚類自然史研究会 伊勢湾-琵琶湖・淀川流域における淡水魚類の比較系統地理:網羅的解析の展望 渡辺勝敏(演者) 2006.10.29
□ Kawamura et al. (2001) Genetic diversity in the Japanese rosy bitterling, Rhodeus ocellatus kurumeus (Cyprinidae). Ichthyol. Res. 48;369-378.
□ ブラックバスを科学する 駆除のための基礎資料 細谷和海 監修 近畿大学水園生態研究室 編集 財団法人 リバーフロント整備センター 発行 2007.3
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アアク8TV水中映像×Goovie 岐阜県の魚類22 汽水域の魚
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□ 岐阜県の魚類 第二版 向井貴彦/編 岐阜新聞社 2019