ウナギの蒲焼(9)
ウナギは臭い魚です。都市河川だけではなく、綺麗な伏流水で捕れたウナギも臭いです。 その臭みを関東風は蒸す、関西風は確り焼くことで消しています。 養殖ウナギよりも天然ウナギは臭い個体が多く、皮が厚いために、より長い時間の加熱が要ります。 上の模式図はウナギ全長50〜55cmを焼いた場合です。 初心者は簡単に臭みが消せて、失敗の少ない下茹で方法をおすすめします。
臭みを消す4つの方法
よくある失敗風 時間(分) 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 臭い 臭み 工程 素焼き たれ焼き
確り焼く
(関西風)時間(分) 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 臭くない 臭み 工程 素焼き 確り焼く たれ焼き
蒸す
(関東風)時間(分) 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 臭くない 臭み 工程 素焼き 蒸す たれ焼き
蒸し焼き 時間(分) 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 臭くない 臭み 工程 蒸し焼き たれ焼き
下茹で 時間(分) 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 臭くない 臭み 工程 茹でる 素焼き たれ焼き
●確り焼く(関西風)
時間(分) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 45〜50cm 50〜55cm 55〜60cm 60〜65cm 65〜70cm 70〜75cm 75〜80cm 80〜85cm
■生 ■確り焼けた ■たれ焼き ■完成ウナギは適当に焼いて、たれを付ければ、良いと思っていませんか?
サケ・サバ・サンマなどを焼くのとは全く違います!
全長45〜85cmのウナギで、完成までの目安時間は、
素焼き25〜60分+たれ焼き5〜10分
完成まで35〜70分(冷凍は+5〜10分)は掛かります。
複数個体を同時に焼くと、より時間が掛かります。
火力が強くて、早く出来そうな場合は、弱めてじっくり焼きます。
臭いは時間を掛けるほど、気化して臭くなくなります。
臭みはだいたい「確り焼く」で8割、「たれ焼き」で2割を消せます。小骨は「確り焼く」だけで、気にならなくなります。 逆に言えば、確り焼かないと、臭くて小骨が気になって不味いです。C〜D段階でたれ焼きへ進む方が多い印象です。 これ以上に焼くと、焦げるのではないかと、不安になるかもしれませんが、まだ全く焼けていません。 尾鰭付近を除いて、簡単には焦げないため、我慢して焼き続けます。 関西風は確り時間を掛け、焦げる寸前まで焼くのが、臭みを消して、味を向上させる、最も重要な工程です。
●蒸す(関東風)
関東風の鰻屋さん(養殖ウナギ99%以上)は「蒸してから焼く」のではなく「焼く(素焼き)→蒸す→たれ焼き」で、15〜60分ほど蒸されています。 希に生蒸し「蒸す→焼く(主に皮だけ焦げ目)→たれ焼き」や茹でる「焼く→茹でる→たれ焼き」もありますが「蒸す→たれ焼き」ではありません。 工場生産は「蒸す→焼く→蒸す→たれ焼き」と2回蒸すこともあります。 蒸すのは余分な脂を落とすためではなく、焼きで取りきれない臭みや、ゴムの様な皮を処理しています。 蒸すが無い関西風は「焼く→確り焼く→たれ焼き」で処理しています。 生から「蒸す→焼く(身皮両側)→たれ焼き」の場合は、せっかく蒸して軟らかくしたのに、焼きで水分が飛んでしまい、ふわふわにはなりません。 関東風は確り焼く工程が無いため、鰭(背鰭・臀鰭)や小骨(特に腹骨)が焼き切れません。 鰭は切除しないと箸で切り分けられません。大型個体は蒸してから小骨取りした方が安心です。
●蒸し焼き
鋳鉄・黒皮鉄・土鍋などに蓋をして焼く方法です。 ウナギから出る水分だけで、蒸し焼き状態になり、蓋からの熱も加わって、短時間(25〜35分)で臭みが消えます。 関西風のスモーキーで濃い味と、関東風の水分の多い軟らかさを併せ持つ、理想的な焼き方ですが問題点はあります。 焼き始めは水分が多いため、網にやや張り付きやすく、身崩れに注意が必要です。煙はとても酷いです。たれ焼きからは焦げ易くて目が離せないです。 関西風のように確りは焼かないため、小骨や鰭が焼き切れておらず、大型個体はやや気になります。 確り焼く工程を追加すると、水分は飛んで時間も掛かり、関西風とほぼ変わらなくなります。
●下茹で
下茹で無し 臭み消し → 下茹で有り 臭み消し 七輪+焼き網 ×臭くて気持ち悪い → 七輪+焼き網+下茹で ◎完全に消える バーベキューコンロ(中) ×臭くて気持ち悪い → バーベキューコンロ(中)+下茹で ◎完全に消える バーベキューコンロ(小) ×残って臭い → バーベキューコンロ(小)+下茹で ◎完全に消える スキレット(中)+焼き網 △少し残る → スキレット(中)+焼き網+下茹で ◎完全に消える インスタントコンロ △僅かに残る → インスタントコンロ+下茹で ◎完全に消える 炉端焼き器(串)+金串 △僅かに残る → 炉端焼き器(串)+金串+下茹で ◎完全に消える 魚焼き網 △僅かに残る → 魚焼き網+下茹で ◎完全に消える フライパン・両手鍋・雪平鍋などに、水とウナギを入れて、中火で8〜15分ほど茹でるだけで、臭みはほとんど消えます。 また、器に水とウナギを入れてラップし、電子レンジ(600W)で5〜7分ほど加熱でも同様です。 臭みは湯気(臭い)として気化し、茹で汁(臭い)に溶け出します。そこから取り出して焼けば、臭みは完全に消えます。 確り焼く工程が無いため、小骨が焼き切れず、残ることがあります。 大型個体は確り焼く工程を追加した方が良いです。
●関東風と関西風が頭でごちゃ混ぜになっていませんか?
順 工程 蒸す(関東風) 確り焼く串(関西風) よくある失敗風 1 ウナギ 養殖(小さめ) 養殖(大きめ) 天然(小〜特大) 2 開き 背開き 腹開きが殆ど 背開き 3 切分け 2つ又は4つ切り 切らない 2〜3つ切り 4 串 短い竹串か金串3〜5本 長い金串4〜15本 竹串2〜3本 5 素焼き 焼き台で浮かせる 焼き台で浮かせる 網に乗せる 6 臭み消し 蒸す 確り焼く 確り焼かずに消えない 7 小骨 大きめは小骨取り 焼き切る 焼き切れない 8 ご飯に乗せる 串を抜くだけ 3〜5cm幅に切る 強引に串を抜くだけ 9 尾鰭近く 食べられる 焦げるので切り落す 生焼けのまま 10 丼箱の単位 1匹(1/4匹単位で増量) 一切れ 1/2匹か1/3匹 11 色 黄色ぽい 茶色ぽい 淡黄色ぽい 12 粉山椒 ふりかけることが多い 使わないことが多い 両方ある 13 軟らかさ 箸で切れる(ふわっ) 箸で切れない(パリッ) 箸で切れない(ゴム) 14 味 ◎上品で薄い味 ◎野生的で濃い味 ×臭くて不味い 15 その他 スーパーや牛丼屋に多い 頭付き販売も多い 泥抜き不足だと責任転嫁
東京都にあるテレビ局は、関東風を放送することが多く、竹串に刺さったウナギを、何度も引っ繰り返す映像を目にします。 こうした場合に関東風か関西風なのかを、認識せずに記憶すると、東西の焼き方が混ざった状態で、蒲焼を作ろうとして失敗します。 竹串で刺してBBQコンロに乗せて焼くのは典型的な誤りです。 竹串で確り焼くことも出来ず、素焼き後に蒸すことなく、東西どちらの必要工程も飛ばして、小骨が気になる臭くて不味い蒲焼になります。
関東風は短い竹串、関西風は長い金串が基本です。串打ちは浮かせて焼く場合で、網に乗せる場合は不要です。 網へそのまま乗せると丸まるので、串に刺すのではありません。 網に乗せて身側から焼くと、焼き始めは丸まりやすいですが、確り焼くと徐々に真っすぐになります。 しかし、皮側から焼いたり、確り焼かない場合は、丸まった状態になりやすいです。
串打ち
●蒲焼はバーベキューではない
形状は東西どちらも丸串か角串が良く、平串は綺麗に刺せずに抜け難いです。 関東風は竹串で身の中心を通し、場所による厚みの違いで、縫うような刺し方をします。 関西風は確り焼けて来ると、金串が身を割って外れやすく、それを防ぐためにやや皮に近い場所へ刺します。 皮側に少し突き出しても問題はないですが、身側に串が見えるようならばやり直します。
●串に刺したら網に乗せない
A △生から金串を刺す
○皮側から焼く
×網に乗せる
超高温の炭と網で臭みを閉じ込める。網に張り付いて焦げる。ゴム食感で気持ち悪くて不味い。
B △生から金串を刺す
○皮側から焼く
◎網に乗せない
超高温の炭で臭みを閉じ込める。身の中心部は確り焼けずに、ゴム食感で少し気持ち悪い。
C ◎下茹でして金串を刺す
◎身側から焼く
◎網に乗せない
下茹でによって臭みは大方消え、身から焼くことで反り返りが弱く、ザクじゅわしっとりで美味しい。Aのような串打ちして網焼きは失敗します。 串に刺して浮かしたら、落ちてしまうのが怖いので、網に乗せるのであれば、それは蒸して軟らかくなった場合です。そのまま焼いて落ちたことはありません。 串に刺した方が、引っ繰り返しやすそうに見えますが、網ごと持ち上がるほど張り付いて身崩れします。 Bは表面だけ硬くなって、中は確り焼けていません。Cは下茹でによる臭み抜きで、安心して焼くことが出来て、美味しいので最高です。
関西風の炭火焼きは臭い!!
関西風の七輪やBBQコンロは、表面が焦げやすく、身と皮の間まで、確り焼くことが困難で、臭みが残ります。 一口目に煙による香ばしさで、味は良く感じますが、後から来る臭みで、全て台無しになります。 煙が酷いため、屋外でしか使えませんし、全身が燻されて、しばらく臭いが取れません。ようするに、臭いウナギを食べて、全身も臭くなります。 魚は炭火が良いに決まっている。そう思う方はサンマを七輪で焼いてみて下さい。 網に皮が張り付いてぼろぼろ、焼きむらが酷い、中まで火が通らない、想像と違うものになると思います。 サンマで失敗するのですから、焼きの難しいウナギではなおさらです。
●ベリーウェルダンまで焼けないので臭い
関西風の鰻屋さんは、養殖ウナギを金串で浮かせて、遠火で焼きます。七輪やBBQコンロは、天然ウナギを網に乗せて、近火で焼きます。これは全く違うものです。 浮かせると均一の熱で、全体をゆっくり焼けます。 網に乗せると、高温の網に触れた場所から、すぐに焦げ始めますが、周りは焼けていません。 網目模様の付いたステーキを想像して下さい。ウナギはレアやミディアムだと臭いため、ベリーウェルダンまで焼かないといけません。 しかし、網に乗せてベリーウェルダンまで焼くと、表面が焦げて苦くて食べられません。 そのため七輪やBBQコンロで作る蒲焼は、レアやミディアムになりがちで臭いのです。
●炭火などの高温加熱は臭みを閉じ込める
七輪
炭火
超高温(700〜1200℃)魚焼きグリル
ガス火
やや高温(300〜400℃)フィッシュロースター
シーズヒーター
適温(220〜280℃)オーブントースター
遠赤外線ヒーター
適温(200〜250℃)蒸す
蒸気
低温(50〜120℃)臭みの主因は、身と皮の間にあるコラーゲン繊維で、天然ウナギは皮が厚いため、養殖ウナギよりもじっくり確り焼かないと融解(固体が液体になる)しません。 適温は150〜250℃程度だと思います。炭火は超高温なため、すぐに表面を焼き固め、水分と一緒に臭みも閉じ込めます。 臭みがあって皮の厚い天然ウナギに、炭火を使った関西風は不向きです。
●ウナパーは下茹で串焼き
屋外でBBQコンロを囲んで、みんなで蒲焼を作るのは楽しいです。関西風(生から焼く)ではなく、下茹で方法(串焼き)をおすすめします。 下茹でしたウナギは、串が刺しやすく、食べやすい大きさに切るため、屋外でまな板や包丁を使う必要がありません。 ご飯に直接乗せて串を抜けば出来上がりです。初心者が適当に焼いても、美味しく出来ますし、臭みが無いために、嫌なを思いをしません。 一例として、前日に家で下茹で→切って串打ち→ジッパー袋に入れて冷凍保存→翌日にクーラーボックスへ入れてBBQ会場→凍ったままのウナギをBBQコンロで焼く→たれを塗る→誰でも作れる臭くない蒲焼の完成。
関西風の皮を軟らかくしたい
飯蒸し 手順 最も熱々で軟らかくなる方法 補足 1 丼鉢にご飯と水を少し入れる。 丼鉢は深くて広い物。水は蛇口シャワーに2回潜らせる程度。 2 ラップをして電子レンジで熱々にする。 オート温めではなく、最大出力でご飯から泡が出て、手で触れられないほど。 3 完成した蒲焼の皮側を、ご飯に張り付けるように乗せる。 皮が少しでも浮いたところは軟らかくなりません。 4 ラップをする。 完全に隙間が無いと、ラップは凹みますので、程よい加減にします。 5 保温バッグへ入れて閉める。 弁当箱用の保温バッグ(100均)。無い場合は乾いた布巾を被せる。 6 9〜13分ほど待つ。 8分以下は軟らかくする効果が弱い。14分以上はご飯が冷め始める。 7 たれを耐熱計量カップへ入れ、電子レンジで温める。 急に沸騰するため、注意深く見続けて、良い加減で止めて下さい。 8 保温バッグから丼鉢を取り出してラップを外す。 9 たれをウナギにまんべんなくかける。 ご飯にはウナギから落ちた量で十分です。 10 熱々で皮は軟らかく、身はサクッと感も残って美味しい!! 蒲焼の多くは「皮は硬く、濃い味」か「皮は軟らかく、薄い味」のどちらかに成りがちです。 飯蒸しは「皮は硬く、濃い味」として作った蒲焼を、「皮は軟らかく、濃い味」に変えられます。 方法は上記の手順通りで、硬くなった皮が熱々ご飯に触れて軟らかくなり、身へたれをかけることで、濃い味が戻ります。
●霧吹き
関西風が確り焼けた後は、臭みは無くなり、味は良くなりますが、ウナギの脂で揚げられて硬くなり、水分が抜けてパサパサになります。 霧吹きすることで水分を戻して、皮を軟らかくすることが出来ます。 水ではなく酒を使うと、軟らかくする効果は弱まり、身に酒の臭いが残って、表面に焦げが出来るため、失敗の原因になります。
●楽焼・せいろ蒸し・たれ煮焼き・ひつまぶし
楽焼は確り焼く串(関西風)として作った後で、たれと一緒に蒸す方法で、身は蒸されてふにゃふにゃ、皮はたれに浸かって軟らかくなります。 せいろ蒸しは確り焼く網(関西風)として作った後で、たれご飯と一緒に蒸す方法で、時間が短いと「皮はやや硬く、普通の味」、長いと「皮は軟らかく、薄い味」になります。 たれ煮焼きは関西風として確り焼いた後で、たれで煮て皮を軟らかくし、たれを抜いて少し焦げ目をつける方法です。 ひつまぶしは確り焼く串(関西風)として作った後で、細かく刻んでお茶漬け(出汁漬け)にすることで、食べる直前に軟らかくなります。 関西風は確り焼かないと「皮は軟らかく、普通の味、臭くて食えない」になります。
●ゴム食感
表面に焦げ目があって美味しそうなのに、ぐにゃっとしたゴム食感で、気持ち悪いことがあります。 原因は炭火などの高温加熱で表面だけを焼き固め、中まで確り火が通っていないためです。 確り焼いた蒲焼は融解や焼き付きで、主に身(皮下組織)と皮(表皮)だけになりますが、 焼きが甘い蒲焼は、身と皮の間にゴムのような弾力のある層(真皮)が残ります。 この層は強靭なコラーゲン繊維で、時間をかけて確り焼くと融解します。 融解した脂は、水分が飛んで空洞になった身へ染み込み、しっとり感と旨みを増やします。 脂が乗ったウナギでも、確り焼いてここを融解しないと、脂の旨みを実感しにくいです。 蒸す(関東風)場合は素焼き工程で、表皮を焦がして穴が開くほど焼き、真皮に蒸し効果が伝わりやすくします。