●はじめに
淡水魚の採集に出かけたら捕れた魚の標本を作ってみるのはいかがでしょうか。
標本は一般的にホルマリンやエタノールを使用します。
ここでは危険物の扱いについては大きく取り上げていませんが、
危険を伴いますので適切に慎重に行ってください。
ここで紹介したことを真似されて問題が起きても責任は取りませんのでご了承下さい。
標本は秘蔵もしくはコレクション的な意味で所有すると、
標本になった淡水魚が少しかわいそうな気がします。
多くの方に利用してもらうためにも信頼の置ける施設などに寄贈するということも大切です。
ヤリタナゴ? (1997.岐阜県) |
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ヤリタナゴ×アブラボテ? (1999?.岐阜県) |
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●標本の必要性
私は小学校の理科室でフナ類のホルマリン標本を見て、標本とは残酷でかわいそうなのだと率直に思いました。
こうした標本を作った人は許しがたい悪人だと小学生ながらに思いました。
現在、私は必要に応じて標本を作ることがあります。残酷でかわいそうだという気持ちは今でも変わっていませんが、
標本を作った人を許しがたい悪人だとは、それだけでは判断できないと思っています。
標本の必要性について下に3つの仮定の例を示してご説明させてもらいます。
【例1】
河口堰建設予定地でAさんがアカメを捕ったとします。
Aさんはそれを知らずに家でアカメを飼育し、やがてアカメは死んでしまい、その後に河口堰建設を知りました。
河口堰の魚道はアユのために工夫されていましたがアカメに関しては全く無視されていました。
それは河口堰関係者がアカメを確認していなかったからです。
それを見てAさんは河口堰責任者にアカメ調査の必要性を訴えます。
でもアカメが生息していたことは誰も信じてくれません。それは証拠がないからです。
この場合は標本が1個体でもあれば違った展開を見せていたかもしれません。
結局のところ河口堰は閉まりアカメは遡上できなくなり姿を消すことになるのです。
アカメ標本という証拠を使ってシンボルフィッシュとして保護を訴えれば、
アカメだけではなく他の生物まで守ることに繋がっていたかもしれません。
【例2】
文献にタナゴ類を1尾採集したとあるとします。
これに標本がなかった場合は恐らくどの種類なのか特定するのは困難だと思われます。
しかし標本があったら種類を後からでも特定することは可能です。
また危険な種類であったとしたら、更にはその生息水域が土地改良で潰される予定だったならば、
1尾の尊い命は犠牲にしてしまいましたが、そのために救われる可能性が出てきた命もあるわけです。
1尾の犠牲でその生息水域を守ることができるのかもしれません。
この犠牲がなかったときはその1尾も含めてすべて潰されて全滅してしまったことでしょう。
標本を作ることは淡水魚のために必要だと思いますが、
必要以上の標本を作ることは特殊な場合を除いて採集圧になる恐れもあるため、
その水域に合わせて臨機応変に対応することが望ましいと思います。
●標本に不可欠な記録
No.18 |
魚種名 | シロヒレタビラ |
個体数 | 7 |
採集日 | 2003.7.5 |
保存日 | 2003.7.6 |
採集地名 | 愛知県名古屋市南西区捕獲町2-48 |
採集水域 | 庄外川水系の用水路 |
採集方法 | たも網 |
採集者 | 棚後 宮子 |
備考 | 特になし |
標本はただ作るだけでは大きな意味はありません。保存した魚に関する詳細な情報が必要です。
それらは標本を作成した人だけがわかるものではなく、
長期的に見て作成者が死没した後に別の人が利用することも想定しておくことも大事です。
1個体ずつに登録番号のついたタグを魚体に付けて管理する方法と、
1産地で同時に捕れた個体を1つの容器に入れる方法とがあります。
ここでは容易に行える後者を記します。
上の表のような紙を標本容器に貼り付けておくと管理が楽ですが、
他人に標本だけを見て欲しいときに同時に採集地も知られてしまうことがあります。
そのため私は登録番号だけ記しておいて詳細な内容はパソコンに保存しています。
必要に応じてプリントアウトしています。
こうした詳細な情報がない標本は、証明や研究に用いる場合に無意味なものになる可能性もあります。
●ホルマリンとエタノール
ホルマリン標本とは市販されているホルマリン10%と水90%というのが基本で、
生息証明や形態形質を調べる場合に用いられることが多いです。
エタノール標本は水で薄めず使いDNA分析などに用いられることがあります。
どちらも薬局で購入できますがホルマリンは手に入り難く、
購入時に印鑑と身分証明書が必要で使用目的などを記載しないといけません。
私が買うときはホルマリン1本650円(500cc)で無水エタノール1本1200円(500ml)ほどします。
ホルマリンは10倍に薄めるため1ccが0.13円(水道代を除く)、
エタノールはそのまま使うため1mlが2.40円となり18倍の価格になります。
また聞いたところではエタノール濃度の低下を防ぐため、
何度かエタノールを置換える必要があるそうです。
しかし安全性という面ではエタノールの方が良いでしょう。
●ホルマリン標本を作るための準備
ガラス瓶を使用。モツゴ属のエタノール標本。 |
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インスタントコーヒーの空瓶を使用。透明鱗フナ類のホルマリン標本。 |
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ジッパー袋を使用。スゴモロコのホルマリン標本。 |
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標本を作るための用意として、魚、ホルマリン、水、容器、人体保護装備などが必要です。
必ず万が一を想定して安全第一で行ってください。人体保護装備はビニール手袋や安全ゴーグルなどは最低限必要です。
魚は採集した当日で外傷などが少なく元気に生きているものが望ましく、
長期間の飼育で形態変動があった個体は標本の価値が下がることもあります。
容器は密封度が高く尚且つ容易に魚を取り出せるものがよいです。
プラスチックの標本専用の容器もありますが量販店などでは手に入りません。
私はインスタントコヒーの空瓶などをきれいに水洗いしたものを使用しています。
空瓶の中には横にしたりすると固定液が漏れるものもありますのでご注意下さい。
また蓋が鉄でさびやすい物は後で開けられなくなることがありますので避けてください。
瓶でなくともプラスチックの容器でも大丈夫です。
ジッパー袋などは便利ですが置き方を工夫しておかないと整理が大変になります。
●ホルマリン標本を作る
道具が用意ができたら作業をする場所を決めます。本来は危険な作業を伴うため作業に適した専用の場所が望ましいのですが、
一般のご家庭では難しいので、空間の広い換気の良い場所や屋外などでも可能でしょう。
近くに子供さんや猫犬などホルマリン容器を誤って倒してしまうことがないように注意を払う必要もあります。
はじめに安全第一で作業するため人体保護装備を身につけます。
そして水90%とホルマリン10%の水溶液を作ります。
容器はミネラルウォーターなどが入っていた空のペットボトルが使いやすいです。
そこに水を90%入れてからホルマリンを10%入れます。
次に空瓶など魚を保存する容器を用意し先に魚を入れます。
このとき狭かったりたくさん入れ過ぎると鰭や体が捻じ曲がったまま固定されてしまうので注意してください。
魚が少し落ちついたらペットボトルに先ほど作ったホルマリン10%を容器に注ぐのですが絶対に一気に入れないでください。
魚はホルマリンに触れると急に容器から飛び出したりすることもあるので少し入れてからすぐに容器の蓋をします。
この時に心に留めておきたいことは、命を故意に奪ったという認識と、
その犠牲で多くの魚たちを救う手段などに必要だということです。
私は必ず成仏してくださいと言って合掌しています。1分ほどすると魚は死んでしまいます。
死んでからは魚が確りつかるように再びホルマリン10%を注いでから蓋をすれば完成です。
●標本を取り出す
標本の保管場所は換気がよく暗い場所が適しています。
魚を容器から出すときも人体保護装備を身に付けて安全第一で行います。
換気の悪い場所で長時間に渡って固定個体を外に出すと、
ホルマリンが室内に充満する恐れもあります。
植木鉢の受皿を2つ用意し片方に水を張りそこに標本を入れて軽く洗います。
それからもう片方に置いてから形態形質などを調べたりします。
魚を扱う際はビニール手袋やピンセットなどを使います。
濡れた魚はティッシュペーパーで水分を拭き取ればより扱いやすくなります。
未同定
標本にしたが同定できなかった魚たちです。ご教示ください。
●モツゴ属(1)・・・ウシモツゴか。
![モツゴ属(1)[T氏撮影]](./ea/mous04s.jpg)
![モツゴ属(1)[T氏撮影]](./ea/mous05s.jpg)




●モツゴ属(2)・・・寸詰まりが強い。




●モツゴ属(3)・・・岐阜県で採集した個体。



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