汽水魚を手軽に飼う(7)





汽水域における問題

 
  
このゴミの下で捕った魚を食べてほしい心境です。
  
写真掲示板2003年9月16日でも記しましたが、 写真は河口に釣りに出かけた時に目撃した違法行為です。 ガラスを投棄しビニール製品を含む家庭ゴミを野焼きしていました。 ここは満潮になると水に浸かるため灰は川に流れ込みます。 自己中心的な行動もさることながら身近な河川環境への無関心さに愕然とした出来事でした。 河口は大雨になれば洪水、地震ならば津波、農作物への塩害、対岸に行くにも遠くにある橋を渡らないといけないなどの不便さ、 私のような釣り人が来るのも快く思っていないかもしれません。 地元の方にしかわからない不便で迷惑なことがあると思います。 私のような町の人はたまに自然に触れてそのありがたみを知り、 自然を守れと気安く言いますが、町は自然を破壊した上に成り立っているため、 破壊した勝ちみたいなところがあるのも事実です。 それでも全体的には貴重となってしまった環境です。 地域の方にもう少しだけ自然に関心を向けてほしいと思いました。 関心が向くと弊害として放流など問題活動が盛んになることもあるためジレンマです。

●船底塗料
 
  
ここは汚染されてしまったから別の場所にすればいいという問題でしょうか。
  
写真は赤色の船底塗料が汽水域へ流れ出ている様子です。 護岸に張り付いているマガキなどの土着生物は別の場所に逃げ延びる事は出来ません。 塗料に含まれた化学物質を取り込むことによって異常を起こす恐れもあるでしょう。 一旦汚染された環境は簡単には元に戻りません。 私は何度かここで捕った魚を食べたことがありますし、秋にはハゼ釣りを楽しむ多くの人を見かけます。 大雨の後以外は水が澄んでおり、水換え用の汽水を何度も汲んで水槽に入れたことがあります。 今となっては食べるのも水槽の水に使うのもためらってしまいます。 こうした現状は汽水域に足を運ばないと見えてきません。

●長良川と揖斐川
 
  
清流長良川と濁流揖斐川。どっちが健全な川なのか。どっちが生物たちには良いのか。
  
長良川河口堰はかつてサツキマスやアユなど両側回遊魚の遡上阻害が大きく報じられましたが、 一方で広大な汽水域を消失したことはあまり取り上げられていません。 堰関係者も認めていますが堰より上流は淡水化によってヤマトシジミは全滅したと考えられています。 「長良川下流域生物相調査報告書」によると堰が出来る前は河口から32.5km地点でヤマトシジミが確認されています。 堰は河口から5.4kmにあり単純に言えば27km以上の汽水域が消失した計算になります。 写真は河口から13.8km地点で長良川と隣接する揖斐川が堤防によって区切られています。 この堤防は堰まで続き長良川と揖斐川は合流して1本の川になります。 両者は同じ場所に流れ込む川とは思えないほど様子が異なります。 長良川は流れがほとんどなく水を漫々と湛えて澄んでいます。 揖斐川は流れが速く植物も多く濁っていています。 写真ではわかり難いですが揖斐川のほうが水面も低い位置にあります。 これは干潮で引潮となり海側に水が大量に注ぎ込まれているためで、 数時間もすると流れも緩やかになり上潮で逆流し始めます。これが汽水域であり健全な川です。 水の動かない長良川は「長良湖」になったという方もいるほどです。 「長良川下流域生物相調査報告書」には多くの汽水生物が記されていますが淡水となった現在はほとんど見られません。 サツキマスやアユなどは遡上可能だとしても汽水生物には無配慮な堰と言えるでしょう。 以前は春になると長良川と揖斐川でヤマトシジミを捕る光景をよく見かけましたが現在は長良川では全く見かけません。 これからも揖斐川でヤマトシジミに出遭えるかどうかは、汽水域の大切さを多くの方が認識することに懸かっていると思います。 汽水魚を捕って飼育が始まった後も汽水域のことを忘れないで是非とも出かけて下さい。

●三重産しじみ1
 
  
スーパーに売られていた謎の黄色いシジミ。外来種定着か?産地偽装か?
  
写真は2004年9月19日に滋賀県のスーパーマーケットで撮影しました。 黄色のシジミが気になり調べることにしました。ご協力下さった方々に感謝致します。 三重県によるとスーパーに出回る三重産シジミのほとんどは木曽三川(木曽・長良・揖斐川)産で、 それ以外は少量だけ漁獲され地元で消費される程度だそうです。 そこで木曽三川にある漁協に写真を見て頂くと、黄色のシジミは揖斐川で漁獲されるようですが、 漁協の方がマシジミと黄色のシジミを区別されているかどうかは疑問でした。 また岐阜県の漁師が三重県の貝業者にシジミを売りに来ることもあるそうで、 三重産と記されていても岐阜産である場合もありそうです。 三重大学の河村功一さんに写真を見て頂くと、 何人か詳しい学生さんに尋ねて下さったようで、 黄色のシジミは国産(ヤマトシジミ、セタシジミ、マシジミ)の何れでも無く学生さんは見たことのない個体だそうです。 また木曽三川には外国産が野生化しているようで、ヤマトシジミに混じって変なのが捕れるそうです。 タイワンシジミなどの外国産シジミが各地で見つかっていることから木曽三川にいても不思議ではありません。 しかし私は木曽三川の複数箇所でヤマトシジミとマシジミを確認していますが、 外国産シジミと思われるものは1度も確認していません。 スーパーを何件か見て回りましたが三重(県)産や木曽三川産などと表示されているものは、 全てヤマトシジミか希にマシジミが混じる程度でした。 誤同定しやすいものとして黄色のヤマトシジミが混じることもあります。 写真のようにヤマトシジミと外国産シジミが見事なくらい半々にパッキングされ、 それがいくつも並べて売られている光景は初めて見ました。 想像ですが三重産ヤマトシジミと安価な外国産シジミを混ぜ、 「三重産しじみ」とだけ表示していた産地偽装ではないでしょうか。 どちらにしても由々しき問題です。

●三重産しじみ2
 
  
これでいいのか三重産しじみは…。大手スーパーは不思議と産地偽装らしきものを見たことがない。
  
写真左は2006年1月15日に岐阜県のスーパーマーケットで購入した三重産と記されたシジミです。 バチ型シジミから直ぐに中国の太湖産シジミCorbicula largillierti が混じっているとわかりました。 全122個体のうち太湖産シジミ97個体(79.5%)、ヤマトシジミ23個体(18.9%)、マシジミ?(タイワンシジミ?)2個体(1.6%)でした。 写真右は2008年2月16日に愛知県のスーパーマーケットで購入した三重産と記されたシジミです。 Corbicula largillierti (中国太湖産)とタイワンシジミ(北朝鮮産?)と未同定(ロシア産?)の3種類が混在し、 他のパックには三重県産とは思えないヤマトシジミ(膨らみが強く成長脈が目立つ)と、タイワンシジミ(カネツケシジミ型と思われる)が混在していました。 上記で触れたように三重県でこれだけ多種で高密度の外国産シジミ生息場所は確認されていません。 仮に生息しているのであれば早急に駆除活動が必要でしょう。 外国産も三重産も「シジミはシジミだ」という考え方は、漁業者と自然環境の両方にとってマイナスです。 私は様々な根拠からJAS法や景品表示法に違反する産地偽装だと思っています。 同様なパックは安さが売りの中堅スーパーマーケットで何度も目撃し、 こうした消費者を欺くシジミの産地偽装は今なお常態化しています。

●移入種


  
生餌は逃がすより処分する方が生物のためになります。
  
濃尾平野の汽水域では国外移入種(外来種)のカダヤシ、イガイダマシ、コウロエンカワヒバリガイ、チチュウカイミドリガニなどがよく見られます。 淡水域に比べると移入種は少なく感じますが、種ではなく集団レベルでは在来か移入かの区別は困難です。 汽水域で釣りをする方の中には、コウロエンカワヒバリガイ(カラスガイ)などを自宅の近くで捕り、 遠くの場所で釣餌として使われる方もいます。また釣餌店から購入したアオゴカイ(アオイソメ)、 ニホンスナモグリ(ボケ)、イソシジミ(アケミガイ)などの余った餌を、当たり前のように投棄されています。 逃がしてあげた、魚の餌になれば、そうした気持ちもあると思いますが、それらが定着すれば言わずもがな様々な問題があります。 餌に寄生する生物も軽視できず、釣餌店でアナジャコ類(カメジャコ)に寄生したマゴコロガイ(写真)も確認しています。 生餌を使うなという極論は主張しませんが、余った生餌はせめて自然のために持ち帰って処分しましょう。 写真のミナトオウギガニはマゴコロガイさんが 専門家に尋ねて下さり、Rhithropanopeus harrisii という国外移入種であることがわかりました。 三重県の汽水域で2004年頃に確認し、定着しているものと考えられます。 釣餌用のカニを捕る罠にも見られ、更なる拡大が懸念されます。

●海が汽水になるとき
 
  
死んだ川は海からよみがえる。それを待つことが大事。
  
純淡水魚は地殻変動によって分布を広げたという説はよく知られていますが、 海(沿岸)の一時的な汽水化も影響していると私は考えています。 川と海の境の海側で何度も採水している場所があり、 そこは普段20〜25‰程度でしたが、 大雨の数日後には非常に薄い汽水(約5‰以下)でした。 汽水域に純淡水魚は見られますが少し下った海に普段は見られません。 しかし非常に薄い汽水になっている期間は海に入って隣の川に移動することは十分に可能だと思われました。 魚から進んで海に入らなくても流されてしまうことも考えられます。 随分前ですが養殖筏の鯛が大量死したという報道がありました。 原因は記録的な大雨で川から大量の淡水が流れ込み海(内湾)の塩分が低下したというものでした。 「庄内淡水魚探訪記」には秋田県で確認されたウケクチウグイが、 50kmほど離れた山形県の河川から増水によって、 海に出来た淡水の層を移動してやって来たのではないかという仮説が記されています。 ここでは淡水と海水の2層に分けてありますが、 海に50kmも淡水層による繋がりがあるというのは、 海で純淡水魚の確認例が極希なことを考えると、いささか大胆な仮説のように思われます。 淡水ではなく汽水層ならば可能性はあるのではないでしょうか。 私は汽水域でオオクチバスやブルーギルを何度も見かけましたが、 例えばA河川にオオクチバスを放流した場合、海に出来た汽水層を伝って、 河系では繋がっていないB河川に広がる恐れも考えられます。 昔は魚が豊富だったが都市化によって死の川になった川が日本の随所に見られます。 その川で独自の進化を遂げた生物や生態系は二度と元に戻りませんが、 魚が見られなくなったからといって復活と称して魚を放流するのは大問題です。 死の川でも河川環境さえ改善させれば海から自然と生物は侵入します。 そのためにも河口堰のように生物の侵入を阻み、淡水と海水という2つに分断するものを見直し、 汽水域という曖昧な水環境をもう少し重視しても良いのではないかと思います。

●異常潮位
 
  
地球とか言うと身近な問題ではないようですが本当は身近です。
  
干潟を守っておられる方々が近年の異常潮位は干潟を駄目にすると仰っていたのは印象的でした。 異常潮位は天文学的に予想された潮汐とは大きく異なることが続くことで、 近年は夏から秋に高い潮位になり地球温暖化が原因の1つと考えられています。 写真は汽水域の脇にある道路側まで潮が差して来た様子です。 道路側はゴミが少なくヨモギも生え、 普段は潮に浸からない場所だということがわかると思います。 この日は異常潮位で見回りされていた方もおられました。 自然保護の際に自然とは何かという定義がよく議論になりますが、 極論を言えば地球温暖化で地球全体がありのままの自然ではなくなっています。 そう考えると自然を守るためには自然保護地域として囲うだけでは意味がなく、 人々が普段の生活から見直して自然を守ってゆく必要があるのだと思います。


まとめ

ここだけは抑えておこう
汽水魚は汽水で飼育する。
採集平均水面−70cm以下のときに行く。軍手が必要。
魚を持ち帰るときにエアレーションしてはダメ。
生物掃除屋さんが多いほど管理は楽になるので入れる。
水槽は半海水(塩分17‰)に常時なるよう調整。
濾過エアは強で水中フィルターを使う。
道具比重計(1500円程度)は必要。
水温ヒーターは年中必要。25℃を保つため26℃にセット。
サンゴ砂や細かい砂だけはダメ。砂礫などに混ぜる。
飾り流木は入れない。カキ殻がおすすめ。
1〜2日1回食べきれないほどたくさん与える。
混泳チチブ類、コトヒキ、クサフグと他魚の混泳は避ける。
  
海水魚を飼う感覚で汽水魚を飼う人がいるけどそれは間違いだよ。
  
私が淡水魚や海水魚の飼育で学んだ常識は、汽水魚ではいくつか異なっていました。 例えば淡水魚は餌を与えすぎないことが基本ですが、汽水魚に餌を控えめにすると共食いが始まり、 海水魚と同じようにサンゴ砂だけの底にすると、汽水魚たちにとっては不安定になりました。 これまで間違えやすいポイントは記したつもりですが、 うまくいかない時はこれまで培った知識が邪魔をしているのかもしれません。

●自然環境と飼育の接点
 
  
飼育を通して自然や生物のことを知るという大義。
  
飼育は決して悪いことではなく、彼らのことを知る重要な手段です。 しかし魚にとって人間の好き勝手に飼育されて一生を終えるだけならば、 虐待と言われたり悪と言われても仕方がありません。 汽水魚を安易に購入したり、採水せず人工海水を使うようになったりして汽水域へ足が遠のく時、 それは自然環境と飼育の接点がなくなることを意味します。 採水は日頃忙しい方にとって非効率な作業と思えるかもしれませんが、 是非ともその際に汽水生物たちを観察してほしいと願っています。 きっと彼らの置かれている現状が垣間見え、新たな発見や感動もあると思います。 汽水魚たちといつまでも楽しく付き合っていくためにも、 飼育と同時に彼らの棲んでいる環境のことも考えてみませんか。