汽水魚を手軽に飼う(5)





水槽で汽水域を再現しよう

 
  
掃除屋さんをどかどか入れれば勝手に汽水域ぽくなります(笑)。
  
写真にはクロコハゼ、タカノケフサイソガニ、ヤマトシジミ、シロスジフジツボ、 マガキ、タマキビ、タテジマイソギンチャクが写っています。 マガキが開いたり閉じたりシロスジフジツボが蔓脚で手招きします。 冷凍赤虫をタカノケフサイソガニが豪快に食べ散らかし、そのおこぼれをタテジマイソギンチャクが触手で捕まえます。 ハゼがメインの水槽ですが賑やかな汽水生物も魅力的です。

●小さな汽水域
 
  
こういう水槽って観賞用ではないかも。それでも見ているとすごく面白いんだけどね。
  
L(40cm)水槽、水中フィルター、エアポンプ、ヒーター、砂(約5cm)、発砲スチロールを使用し、 魚はトビハゼ、クロコハゼ、アベハゼ、ツマグロスジハゼ、カワアナゴ、タネハゼ、コガネチワラスボ、 サツキハゼ(当サイトの範囲外で採集)を飼育しています。 掃除屋さんはカバグチカノコ属の一種(ヒロクチカノコ本土型)、カノコガイ、タマキビ、ウネナシトマヤ、ヤマトシジミ、 スジエビ、スジエビモドキ、テッポウエビ属の一種E、タカノケフサイソガニ、ユビナガホンヤドカリ、 フサゲモクズ、シロスジフジツボ、チギレイソギンチャク、コケゴカイを入れてあります。 この水槽は魚の相性が悪い組み合わせじゃない限りほとんど死にません。 水換えは3ヶ月に1回ほどで通常は蒸発して減った分に対して水道水をそのまま入れています。 水中フィルターは何年も放置で苔や砂掃除は1度もしていません。 一見すると汚らしく見栄えが悪いですが、水は綺麗に保たれ状態は安定しています。 多くの掃除屋さんを入れて汽水域の環境に近づけるほど良い飼育環境になるようです。

●トビハゼ
 
  
実際にこの水槽でトビハゼは3年近くも飼えました。
  
上記のL(40cm)水槽には発砲スチロールを浮かせてあります。 この方法は川口さんから学ばせて頂き、半信半疑でしたが3年近くも飼育できました。 普段は写真の手前にある板や奥の汽水を1cmほど入れたところに浸かっています。 砂や泥を入れたこともありましたが、ほとんど利用せず発砲スチロールを好んでいるようです。 人が近付くとガラス面に顔を付けて「餌くれダンス」をします。 蓋は隙間がない方が逃げられ難いですが、蓋を開けても水槽の外に逃げたことは1度もありません。 水深のある水槽は干潟と違って溺れるという方がいますがトビハゼは魚のため鰓呼吸します。 干潟は干潮時に出現し約6時間後の満潮時は大人の背丈以上になる場所です。 その際に潮流は非常に速い場所もあり、強風や船が通った時は激しく波立ちます。 餌も泥の上だけでなく飛んでいるユスリカに跳び掛かり水中の赤虫を捕らえます。 そうした環境や様子を知れば本当にたくましい魚と思えてきます。 人からの目線で過保護に飼う方がトビハゼにとっては逆にストレスかもしれません。

●砂上の掃除屋さん
 

隙間の細かい餌も掃除

垂直で餌を食べる

苔を齧り捕る
  
とにかく掃除屋さんを入れましょう。清潔さに拘る方はだめかもしれませんがそれが汽水域です。
  
魚が食べ残した餌。マガキの上に乗ったものはヤドカリ類やエビ類が登って探し、 砂の上ではカニ類が見つけ出します。水中を漂うものはフジツボ類やイソギンチャク類が捕らえ、 細かい有機物は二枚貝が植物プランクトンはマガキが摂り込みます。 それでも余る有機物は苔の生育を促進しそれを巻貝が齧り捕ります。 砂の隙間に入った残餌はそれをまた利用する生き物がいます。

●砂中の掃除屋さん
 

砂中の赤虫を捕食

砂中で餌を探す

砂中の小石を運ぶ
  
ヨコエビさまさまです。水中フィルターの中までお掃除ご苦労様です!
  
砂中に入った残餌はヨコエビ類とゴカイ類が砂中を縦横無尽に移動して食べます。 両者は水槽で容易に繁殖し、様々な大きさの個体が見られるようになり、 それが魚などに見つかれば捕食されます。 フサゲモクズ(写真左側3つ)は水中フィルターの中まで侵入して掃除しますが、 シマドロソコエビ(写真右側)は巣を作って移動が少ない種類もいます。 ヨコエビ類の行動はとてもユーモラスでメインの汽水魚よりも見入ってしまうほどです。 魚だけを飼育するよりも面白さが何倍にも膨れ上がり、尚且つ状態がよく世話をすることはほとんどなくなります。 死んだ掃除屋さんも魚と掃除屋さんによって綺麗になくなります。 小さな水槽でこれだけ多様な生き物を飼育できる素晴らしさは汽水魚飼育ならではだと思います。


初心者でも飼えるアベハゼ

 
  
生粋の汽水魚アベハゼ。飼育で死ぬときは寿命だけ?!
  
私がこれまで飼育した汽水魚の中で最も容易だったのはアベハゼです。 全長4〜5cmで宮城県・石川県から種子島までの汽水域に生息しています。 淡水魚水槽で病気が蔓延してフナ類すら死ぬ状況でカワバタモロコだけが生き残ることがあります。 このアベハゼはそれ以上の丈夫さを持った魚で、採集時に成魚でしたが5年間も飼育できました。 アベハゼにとっては劣悪な環境の方が好んでいる気すらします。 それなのに水槽内では可愛い動きをし、水槽のガラス面に張り付くなど特異な行動も魅せます。

●どんな環境に生息しているか

基本はたも網で底引き

  
ヘドロ臭いドブ川でも見られます。とにかくアベ君は無敵です!
  
アベハゼは都市河川の汽水域を代表するような魚で、 ヘドロが堆積して魚など居るはずがないと思うような場所でも見られます。 写真のような干潮時に出来た水深15cm以下の水溜りにも多く見られます。 写真左上は干潮時に落ちていた木をめくったら、水気があるだけのところに5尾も見られました。 上潮になって再び水が入って来るのを待っているのでしょう。 アベハゼの捕獲は簡単で人間が近づくと逃げ惑うのですぐに気付きます。 それを見つけたら手づかみやたも網で底引きすれば捕れます。 捕獲方法の動画はなおきさんにご協力して頂きました。 この場所は後に埋め立てにより消失しました。

●L(40cm)水槽で飼う

  
本当は水槽と汽水と餌だけでアベハゼは飼えるかもしれません。
  
L(40cm)水槽の主な設備は、水中フィルター、エアポンプ、 ヒーター、砂(約3cm)、雨どい、ヤマトシジミ、半海水です。 半海水を推奨しますがアベハゼに限っては塩分5〜20‰の範囲であれば問題は起きないと思います。 水量も水中フィルターの口から水が出る程度で良いため塩だれも起きません。 水換えはほとんどしなくても良いばかりか、半海水を入れてから蒸発した分だけ水道水を足しておけば半年以上は大丈夫でしょう。 餌は雑食性で何でもよく食べます。雨どいが入れてあるのは一時的に上陸することがあるためです。 上陸する時は水質悪化していることが多く水換えすると上陸回数が減ります。 私は産卵させたことはありませんが、川口さんによると春に産卵もするそうです。


特異なヨウジウオ類

 

冷凍イサザアミを摂餌
  
水面近くでゴミに紛れて動く棒があったらヨウジウオ類かもしれないよ。
  
ヨウジウオ類はユニークで面白いですが微小生物を与えないといけません。 これまでガンテンイシヨウジ成魚は小さな甲殻類(ミゾレヌマエビ、フサゲモクズ、ヒゲツノメリタヨコエビ、ポシェットトゲオヨコエビ、 ニホンドロソコエビ、シマドロソコエビ、モズミヨコエビ、ドロクダムシ類、ニホンイサザアミ、クロイサザアミ、カイアシ類)、 エビ類(スジエビ、スジエビモドキ)が抱えた卵、オイカワ、アルテミア(活、冷凍)、 冷凍イサザアミ、冷凍ミジンコ、冷凍ワムシ、冷凍赤虫などを食べました。 アルテミア幼生と成体(ブラインシュリンプ)は小さ過ぎるためか無視されることも多く、 ビール酵母などを与えて成長させたアルテミア成体の方がよく食べます。 冷凍餌や人工飼料は無視したり口に入れても吐き出す個体が多いです。 その中でも冷凍イサザアミ(クリーンホワイトシュリンプ)は、しつこく水槽に入れ続けると食べるようになることが多く、 カワヨウジは採集から3日で食べ始めました。 ただし、冷凍イサザアミだけ与え続ければ良いわけではありません。 ガンテンイシヨウジは水槽内でも繁殖したことがあります。 私の水槽では餌を3日ほど与えなかった時に、空腹のカニ類が挟んで傷になって死ぬことが多く、 テングヨウジのように水面近くを泳いでいるものは別ですが、特に大きなカニ類との同居は避けたほうが良いでしょう。

●タツノオトシゴ類
  

テナガエビを狙う
  
サンゴタツがカニに食べられて思った標語「カニ。ゼッタイ。」
  
汽水域で捕れるタツノオトシゴ類は、サンゴタツとクロウミウマの2種くらいだと思われます。 サンゴタツがこれまで食べた餌は、ポシェットトゲオヨコエビ、アルテミア成体、冷凍イサザアミ、冷凍ミジンコです。 クロウミウマは色々な冷凍餌や人工飼料を試し、 ヒゲツノメリタヨコエビを大量に入れても無視し、結局は14日間も絶食し、 テナガエビの子供を入れたらようやく食べました。 このように餌に関してはヨウジウオ類よりも難しい印象があります。 また、サンゴタツは動きが遅くて、形状からカニ類が捕まえやすいようで、 小さなカニ類でも同居は避けた方が良いでしょう。