汽水魚を手軽に飼う(2)





汽水魚の採集

 
  
汽水域でミナミメダカを見ればミナミメダカの見方が変わりますよ。
  
汽水域は魚種が豊富で「淡水魚」と付く図鑑を見るとその多さはよくわかると思います。 淡水魚の生活型として純淡水魚(コイ)、遡河回遊魚(サケ)、降河回遊魚(ウナギ)、 両側回遊魚(アユ)、陸封魚(アマゴ)、周縁魚(マハゼ)、汽水魚(アカメ)などが知られていますが、 陸封生活を送る魚以外は全て汽水域で見られ、それに加えて普通は海で見られる海水魚(沿岸魚)も侵入します。 写真は純淡水魚とされているミナミメダカが汽水域で見られました。 辺りにはホソウミニナがたくさん見られ、こうした光景を見ると汽水域の魅力を感じずにはいられません。 コイの群れが泳ぐ同じ場所でオヤビッチャを捕ったこともありますが、 こうした図鑑では海水魚とされているものが希に汽水域へ侵入し、 そうした彼らと出会った時こそ汽水魚採集の醍醐味の1つと言えます。 汽水魚の採集場所はシジミ捕りやハゼ釣りで賑う河口が狙い目です。

●魚類相
43(採集)+4(目撃)+3(死骸)=50種類
アカエイ(死骸)
コノシロ(死骸)
ニホンウナギ
コイ導入型(死骸)
フナ類(ギンブナ?)
タイリクバラタナゴ
オイカワ
ヒガイ伊勢湾周辺種
カマツカ
スゴモロコ
ニゴイ類
ウグイ
ギギ(目撃)
ナマズ(目撃)
アユ
シラウオ
テングヨウジ
ボラ種群
メナダ
セスジボラ
トウゴロウイワシ
カダヤシ
ミナミメダカ
クルメサヨリ
サヨリ
ダツ
マゴチ
オオクチバス(目撃)
ブルーギル
スズキ
シマイサキ
コトヒキ
クロダイ
ヒイラギ
カマキリ(アユカケ)
ウツセミカジカ
ウロハゼ
ヒメハゼ
ビリンゴ
ウキゴリ
スミウキゴリ
マハゼ
アシシロハゼ
アベハゼ
オオヨシノボリ
ヌマチチブ
シモフリシマハゼ
ショウキハゼ(目撃)
トビハゼ
イシガレイ
  
同じ場所でも何が捕れるかわからないため毎回ワクワクします。
  
上表は濃尾平野にある1地域の汽水域で確認した魚種です。 汽水域は魚種が豊富に見られ様々な生活型が混在する水域と言えます。 例えばカマツカ(純淡水魚)が底にいてトウゴロウイワシ(周縁魚)が上層を泳いでいたり、 メジナ(海水魚)とトサカギンポ(汽水魚)の真横を、 カワヒガイ(純淡水魚)が食物を探すように泳ぐ光景を目撃しています。 またオイカワが群れていると中流域を思い浮かべますが、 汽水域で何度も目撃すると徐々にそうした固定観念は消えてゆきます。 写真は水面に浮いたアイアシをたも網で掬ったところ、 ガンテンイシヨウジと一緒に普通は水田などに見られるガムシが捕れました。 魚類に止まらず新たな発見や感動が汽水域にはあふれています。

●季節による変化
温帯地域の汽水魚採集シーズン
期待度
15
14
13
12
11
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
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春の遡上期は稚魚の大群。秋は初見の魚が捕れる確立高し。
  
図表は色々な種類(特に無効分散・遇来魚・珍魚)が見られる時期を印象から作りました。 汽水魚の採集シーズンは8〜10月で、ピークは9月下旬〜10月中旬頃です。 ただし、この頃は台風による大雨で水温と塩分が低くなり、1週間近く悪い状態が続くこともあります。 春は両側回遊魚の遡上期を向かえ、一斉に遡上して凄まじい数が見られます。 温暖な地方ほど時期が早まり、三重県では2月頃からシロウオが遡上を始めます。 次いでアユ、ボウズハゼ、ウツセミカジカなどの稚魚が見られるようになります。 夏から秋は周縁魚の幼魚が汽水域へ侵入し、 黒潮や対馬暖流に乗って運ばれる無効分散(死滅回遊魚)が見られる時期です。 それらは年によって異なり、黒潮が東京湾に接近すれば、 図鑑で沖縄県以南に分布とある魚が、流されて川に入って見つかることもあります。 冬は温暖な地方を除いて静かで、魚は水温の高い海へ出たり冬眠してしまいます。 それでも低温に強いシモフリシマハゼやトサカギンポ、淡水域と汽水域の両方で見られるウグイのような魚は見られます。 産卵のために下って来るカマキリに出遭うこともあります。

●潮汐は非常に重要
  
  
平均水面cm−70cm=これ以下cmは干潟出現。たも網での採集はこの時間帯です!
  
汽水域は潮汐の影響で同じ場所でありながら、 干潟から水深2m(有明海は6m以上)になる変化の激しい場所です。 ただし日本海側は潮汐変化が小さく干潟が現れる場所は希です。 淡水域と異なる点は潮汐を確認してから採集に出かけたほうが良いということです。 干潟の出現時間は全国の潮汐(SmailNetBBS)で、 採集予定場所の近くの港をクリックして平均水面を確認します。 その平均水面からおよそマイナス70cm以下が干潟になる時間帯です。 潮が引いて干潟が出れば水溜り状の場所や澪筋をたも網で探るのがおすすめです。 春夏は昼間に秋冬は夜間に潮がよく引き、 夜間は日没3時間後から日出3時間前までが昼行性の魚が寝ているため捕りやすく、 日中に見られなかった夜行性の魚も見られます。 満月の夜は魚が起きてることもあるため新月や曇りの日が狙い目です。 秋の新月で午前0時前後に干潮になる時が最も採集しやすく、 普段は見られない魚が捕れることも多い印象です。

●干潟はたも網
  
  
干潟が出たらたも網で超小型底引き網漁だーっ!
  
水槽で飼える小魚を捕るには干潟でたも網が最も適しています。 後は胴長・バケツ・軍手があれば採集可能です。 爪を割ったり隙間に泥砂が入り込まないよう爪は切っておきましょう。 捕り方は濁った水中をたも網で底引きするのが基本です。 引き上げると何が入っているかわからず、思いがけないものが捕れたりして面白いです。 三又鍬は干潟の砂を掘る時に使います。 アナジャコ類が空けた穴を掘っていると希にヒモハゼなど砂中に棲む魚が出て来ることもあります。 右上の写真はカキ殻を開いたら丸まっていたトサカギンポです。 カキ殻の塊をたも網に入れてゆすると中に入っている魚が出てきます。 干潮時に水上に出ているカキ殻にもトサカギンポ、イダテンギンポ、サツキハゼなどは潜んでいます。 特に夜はカキ殻の中で寝ている魚がたくさん捕れます。 懐中電灯はたすき掛けで肩に掛けられるように紐(120cmの靴紐が肩に食い込み難くて楽です)を付けます。

●潮の高いときは釣り
   
  
干潟が出ていない時は、たも網よりも浅場で見釣りが効果的。
  
フエダイ類など中層を泳ぐ魚は、足元にいてもたも網で捕るのは難しく、見釣りすると簡単に釣れることがあります。 竿は短めの延竿かリール竿を使い、仕掛けは猿環(必要に応じてガン玉)と、ハリスと針を付けた簡単なものです。 針はスレ針だと飲み込まれても死ぬことは少ないですが、普通の針は返しがあるため、掛かりは良いですが魚が死ぬこともあります。 餌の基本はオキアミですが、なるべく軟らかくて崩れ易い方が良く、針が確り隠れるように付けます。 これを中層を泳ぐ魚の口元にゆっくりと近付けて釣ります。 海に近い場所の底層は、塩分が海水に近いことも多く、 リール竿でゴカイ類をぶっこんで釣れた魚は、海水魚と考えたほうが良いでしょう。

●採集で危険なこと
   
  
カキで手を切らないでね。泥から足が抜けなくなったら土下座して足を引き抜こう_| ̄|○
  
干潟は満潮時に水がある場所ですので、遠くまで歩いて後ろを振り返ったら、 潮が満ちて帰れなくなることもあるため、水面の動きはよく観察しながら移動します。 干潟を裸足で歩くとカキ殻やゴミなどで足を切ったりするため胴長や安全長靴が必要です。 泥深い干潟は足を入れると抜けなくなり死ぬかもしれないと焦ることがあります。 助けを呼ぶと助ける方も泥に埋まるため、まずは自力での脱出を試みて下さい。 慌てず足を曲げて立膝をつき、足を手で掴んで引き抜きます。 それで無理ならば泥面に四つ這いや腹這いになって両手で前へ進めば抜け出せるはずです。 カキ類を素手で触ると鋭利な刃物で切ったような怪我をしますし、 胴長も靴の横側を何度か切ったことがあり危険です。 カキ類の多い場所は刃物が並んでいると思って下さい。 軍手を使うとカキ類を掴んでもまず怪我はしません。汽水域には危険な生物もいます。 写真のトゲノコギリガザミなどに挟まれると、軍手越しでも頗る痛く出血するほどで、 子供であれば指が千切れる恐れもあり大変危険です。 海から潮流に乗って流れ着いたと思われる有毒のアカクラゲが見られることもありますが触らないで下さい。 アカエイという座布団くらいの大きさになる魚も見られます。 尾部に猛毒の棘があり死んだ個体でも触らないで下さい。 知らずに踏みつける可能性もあるためお気をつけ下さい。 毒蛇のヤマカガシが干潟に現れたり思いも因らないこともあるため用心しましょう。 夜間は懐中電灯の電池が切れると真暗で危険が増すため、 予備のポケットライトを携帯しておきましょう。

●魚を家まで持ち帰る
 
  
1日半程度ならばエアレーションしちゃダメ! 汽水魚だけではなく淡水魚も同じですよ。
  
車での採集はタンクに魚を入れて持ち帰ります。 汽水域からの水汲みは塩分の低い表層ではなく出来るだけ深くから汲みます。 冬場は気温より汲み水の方が暖かい場合もあり、20℃以下にしないよう車に入れて暖房をつけます。 夏場は35℃以上になると死ぬ場合もあるため車に入れて冷房をつけます。 体積が大きいほど保温力が増すため小さなタンクは不向きです。 酸素パッキングは水量が少なくなりがちで、 排泄物の多い魚を入れると水質悪化で死んだり、尖った鰭の魚がビニール袋を破るため不向きです。 クーラーボックスも良いですが蓋の隙間から水が漏れたり、 蓋の面積が広いため開けた瞬間に中の魚が飛び出すことがあります。 タンクもクーラーボックスも一長一短があります。 酸素不足の心配から乾電池式エアポンプを使うのは弊害が大きいです。 エアレーションは容器内で下から上への水流と車の揺れで複雑な流動を作り出し、 強くエアレーションするほど魚の体力を消耗させます。 魚は容器内で隠れる場所を求めて移動してエアストーンに集まり、 車が揺れる度にエアストーンと魚同士が擦れ合って傷つき死魚が出ます。 死魚はエアレーションで容器内をぐるぐる回って腐敗し、やがて水を汚して他の魚も死にます。 淡水魚輸送の際に鼻上げするからエアレーションされる方もいますが、 それは水温を上昇させたためで低く保てば酸素を使う量も極端に減るため、 多少過密でもエアレーションを止めた方が生存率が高くなります。 車が揺れるとタンク内で酸素が水に溶けるので水は8割程度までに止めておきます。 真夏に名古屋から2日間かけて紀伊半島一周(約780km)して採集魚を持ち帰ると、 ゴマハゼが2尾ほど足りず他のハゼに食われたようでしたが他の魚は全て元気でした。 当然その間にエアレーションはしていません。もしもしていたら多少は死んでいたでしょう。